「研究者が語るIBM世界戦略」

全盲の研究者が描く未来

高齢者や貧困層、非識字者の社会参加をITでサポート

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2010年5月13日(木)

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 IBMが「スマーター・プラネット(より賢い地球)」戦略で進化させようとしているのは「モノ」だけではない。人間と技術がどのように関わり、情報にアクセスしていくか。どうすればより多くの人にITの便益を届けられるか。IBMには、一見しただけではビジネスには結びつかないテーマを追究する研究者が数多く在籍している。

 日経ビジネス5月10日号特集「米IBM、インフラ企業に変身」の連動インタビューシリーズ最終回に登場するのは、アクセシビリティ分野の第一人者である浅川智恵子・IBMフェロー。

 中学時代にプールでの怪我がもとで失明したが、ウェブサイトの音声読み上げなど、障害者向け技術の研究開発を続けてきた。その貢献が認められ、2009年にIBMの技術者の最高職位であるフェローに任命された。

 浅川フェローが最近力を入れるのが、音声など文字情報を使わない情報アクセス手段の研究だ。なぜIBMがこの分野に注力するのか。浅川フェローが語る。

(聞き手は小笠原 啓=日経ビジネス記者)

浅川 智恵子(あさかわ・ちえこ)氏
IBMフェロー、日本IBM東京基礎研究所アクセシビリティ・リサーチ担当
中学時代にプールでの怪我がもとで失明。1985年に日本IBM入社。2004年に東京大学工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。1997年に視覚障害者でもネットサーフィンが楽しめるソフト「ホームページリーダー」を開発。現在11カ国語に対応。これらの功績により、1999年厚生大臣表彰を受賞、2003年に米国女性技術者団体WITI(Women In Technology International)が選定する女性技術者の殿堂入り、2004年第3回日本イノベーター大賞(日経BP社が主催)において優秀賞を受賞。2009年に日本人女性として初めてIBMフェローに就任。日本人としては、ノーベル賞学者の江崎玲於奈氏などに続き5人目となる。
(撮影:陶山 勉、以下同)

 ―― IBMは3月、東京大学先端科学技術研究センターとインドの国立デザイン大学と共同でモバイル端末用のユーザー・インターフェース技術の研究を始めると発表しました。高齢者や新興国における非識字者が情報にアクセスしやすくするのが目的としています。共同研究を始めた動機を教えてください。

 浅川 きっかけは、(ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が設立した)バングラデシュのグラミン銀行の取り組みを知ったことだ。グラミン銀行が手がけるマイクロファイナンスは、非識字者や貧困層が貧しさから抜け出す大きな力となった。

 その時に活躍したのが携帯電話だ。携帯電話を使ってちょっとした商品の値段を知るだけで、生活レベルが劇的に向上する。携帯電話をもっと普及させられれば、世界はもっと良い場所になる。こう考えたのが始まりだ。

「声」でネット上に情報を発信できないか

 例えば路上でバナナを売っている人なら、誰しも今日中に売り尽くしたいと考えるはずだ。だが、文字が読めないとインターネット上の情報にアクセスできないし、逆に「ここで売っている」という情報を知らせることもできない。

 そこで「声」を使って、インターネット上に情報を発信する仕組みを作れないかと考えている。私はこれを「ボイスポータル」と呼んでいる。録音音声をネットワークする仕組みで、電話の自動音声応答システムに似たイメージだ。

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このコラムについて

研究者が語るIBM世界戦略

IT(情報技術)業界の巨人、米IBMが攻勢を強めている。サミュエル・パルミサーノ会長兼CEO(最高経営責任者)の号令で、全世界の社会インフラを、ITで進化させる動きが本格化している。対象は水道から電力網、医療システムなど生活の隅々まで及び、世界中の都市運営の黒子として存在感を高めつつある。IBMの動きが示す、新たな商機は何か。

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