30歳から40歳までの10年間の研究のほとんどは、コンピューターを駆使する「デジタル流体力学」という分野の研究だった。最初に開発したのは、船の波をコンピューター上で再現するための新しいソフトウエアだ。
船は波を作りながら進むのだが、その波が大きいということは、波を作るための馬力が必要なわけだから無駄が多い。つまり船の馬力のかなりが波を作ることに使われてしまう。だから、波が小さく低くなるように船の形を設計したほうがいい。
しかし、その頃までは、実験を繰り返すという時間と費用のかかる設計法しかなかった。色々な形の船を設計して、長いプールのような実験設備で5、6メートルもある大きな模型船を走らせて、いちばん馬力が小さくて済む船を選ぶのが一般的な設計法だった。
20代の会社員時代、私は造船会社で、この通りのことをした。色々な形を設計して横浜の研究所の実験に立ち合って、既に受注していたバラ積み船の形の最終形を探した。
なぜ利益が最も大きいかを追求する余地あり
どうしてその形にすると必要な馬力が小さくなるのかはあまり考えなかった。また、形を変えると船の作る波がどのように変わるかもあまり考えなかった。経営で言えば、商品を変えてみたり、ビジネスのやり方を変えてみて、利益が最も大きかった商品や経営方法を採用するといった具合だ。どうしてその経営方法が良かったのかはあまり追求して考えようとしないことが多いのと同じだ。
水の現象も、経営の現象も、複雑で非線形だから、メカニズムは分からないものと考えて、結果だけで判断してしまっていたのだ。これでは設計と経営も、今一段の進歩は望めない。
水の運動は「ナビエ・ストークス式」という難しい方程式に従うのだが、この方程式はそのままでは解けない方程式だ。これをコンピューターを駆使して数値のカタマリに置き換えて力づくで解くのが「数値流体力学」という学問分野だった。今では機械工学、航空工学、土木工学、船舶工学、気象学など広い世界で当たり前の技術になっている。事業仕分けで科学技術予算削減の象徴的なもののように議論された「地球シミュレーター」も、このためのコンピューター設備である。
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