われわれは、ようやく道具としての情報を理解できるようになったばかりである。しかし、情報システムの主要部品についての大要はすでに明らかである。しかも明日の組織のコンセプトも、同時に明らかになりつつある。
〜 ピーター・F・ドラッカー(上田 惇生訳)
ドラッカーは「組織が必要とする情報」という論考をこう書き出している。この論考は、『未来への決断』『明日を支配するもの』『初めて読むドラッカー チェンジリーダーの条件』といった著作に繰り返し収録されている。情報の整理の仕方について付け加えたり、修正する点がなかったため再掲したのであろう。
冒頭の一文に続いてドラッカーは、「今日のところ、企業と情報のコンセプトの再構築は、最古の情報システムたる会計の世界において最も進んでいる」と書く。ただし、すぐ後で「しかし、自社の活動のコストについての情報を得ただけでは不十分である」とし、「経済活動の連鎖全体のコストを把握」しなければならないと説く。
これ以降も「しかし」が繰り返される。会計も経済活動連鎖全体のコストも、ともにコスト管理に関わる話だが、さらに読んでいくと「しかし、企業が収入を得るのは、コストの管理ではなく、富の創造によってである」という指摘が出てくる。
「富の創造のための情報」として、「基礎情報」「生産性情報」「強み情報」「資金情報と人材情報」を解説するが、「ところが、これら四つの種類の情報にしても、現在の状況について教えるにすぎない。したがって、とるべき戦術を教えるにとどまる。戦略については、外部環境についての組織的な情報が必要である」と続ける。
ドラッカーが図を嫌ったわけ
ドラッカーは順々と書いているが、「組織が必要とする情報」を読み終えて、筆者は四象限のマトリクスを思い浮かべた。マトリクスの横軸に情報の入手場所を、縦軸に情報の目的をとる。
情報の入手場所とは、企業の中にある情報か、あるいは外にある情報か、といったことである。情報の目的とは、イノベーションを推進し富を創出するための情報か、それとも企業活動のコストに関わる情報か、といった違いを指す。こうすると、ドラッカーの論考が整理できる。
以前ITproというサイトにおいて「組織が必要とする四象限の情報」と題し、ドラッカーの論考を紹介した。すると、ある読者の方が「執筆中の論文に四象限をマトリクス表示して引用したい」と電子メールを送ってこられた。
確かに図を作りたくなる。だが、ドラッカーはマトリクスという言葉は使っていないし、図も掲載していない。この件をドラッカーの著作を長年訳してこられた翻訳家でドラッカー学会会長の上田惇生氏に尋ねたところ、意外な反応があった。
上田氏はこう答えた。「ドラッカーはモデルが嫌いでした。膨大な著作の中にモデルや図を全くといっていいくらい入れていません」。
限界を知らない、説明しない人を嫌った
ドラッカーの本をあれこれ見てみると、確かに文章だけであって、コンサルタントが書いた本にしばしば出てくるモデル図は皆無である(上田氏によると、1冊だけ図表を掲載した本があるという)。
なぜモデルや図が嫌いなのか。上田氏によると、コンサルタントや学者がモデル図を作り上げ、そのモデルに採用した言葉の定義を説明することに対し、ドラッカーは「時間の無駄」と言ったそうだ。
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