経営の世界でよく見かけるものの、日本語に訳しにくい英単語がある。art、design、managementなどがそうだ。中でも翻訳不能と言える単語が“integrity(インテグリティ)”である。かのピーター・ドラッカーが、マネジメントの担い手の「決定的に重要」な資質として挙げたのがintegrityであった。
ドラッカーでさえ「定義が難しい」と書いている
ドラッカーのほぼすべての著書を訳している翻訳家の上田惇生氏(ドラッカー学会会長)は、integrityを「真摯さ」と訳している。
経営管理者が学ぶことのできない資質、習得することができず、もともともっていなければならない資質がある。(中略)それは、才能ではなく真摯さである。
部下たちは、無能、無知、頼りなさ、不作法など、ほとんどのことは許す。しかし、真摯さの欠如だけは許さない。
真摯さに欠ける者は、いかに知識があり才気があり仕事ができようとも、組織を腐敗させる。
(いずれも『現代の経営』から)
これだけ重要なintegrityとは何か。ドラッカーでさえ「定義が難しい」と書いている。ただし「真摯さの欠如は、定義が難しいということはない」。ドラッカーが『現代の経営』で挙げている、integrityが欠如した人の例は以下の通りである。
・人の強みではなく、弱みに焦点を合わせる者
・冷笑家
・「何が正しいか」よりも、「だれが正しいか」に関心をもつ者
・人格よりも頭脳を重視する者
・有能な部下を恐れる者
・自らの仕事に高い基準を定めない者
「integrityがある」は最高の誉め言葉
米国企業の経営方針や社員が持つべき価値観を示した文書をながめていると、integrityが実によく出て来る。ある経営者を“He was known particularly for his integrity”と称したら、普通は最高に誉めたことになる。
上記の英文は、“The Adventures of an IT Leader”という小説から引用した。なぜ英語の小説を読んだのかと言えば、この小説の翻訳書『ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか』を編集する仕事を少し前に手掛けたからだ。翻訳は野村総合研究所のコンサルタントである淀川高喜氏が手掛け、筆者がその原稿を査読した。
この小説の主人公は、仕事はできるがITのことはまったく知らないビジネスパーソンである。主人公は突然、CIO(最高情報責任者)に任命され、様々な苦労をしながら、ITリーダーとして成長していく。小説の形式をとっているが、もともとはビジネススクールのケースメソッド用教科書として書かれており、読者が様々なエピソードを読み、「自分ならどうするか」を考えられる作りになっている。
“He was known particularly for his integrity”を訳者の淀川氏は「彼は特に統率力で知られていた」と訳してこられた。確かに、integrityを持つリーダーは統率力があるだろう。ただし、いささか意訳であり、もう少しintegrityに忠実な訳はないかと考えてみた。
思い付いたのは、「特に、軸がぶれない、一徹の人である点が広く知られていた」という訳文である。少し先を読むと、この「彼(主人公ではない)」が「蛇のような嫌な奴」であると書いてあるので、「真摯な人」と訳しにくかった。
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