「宮田秀明の「経営の設計学」」

左右の脳を使える人材の育成は重要な国家戦略

右脳の強化は長生きと創造力を高める

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2010年9月3日(金)

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 忙しい仕事の合間に秘書のKさんと右脳左脳論議をした。彼女は私に言った。

 「先生、手を結んでください。ハイ、次は腕を組んでください。」

 私の動作を見て彼女は言った。

 「先生、インプットもアウトプットも全部右脳型ですね」。

 こんな判定法が科学的に正しいかどうか分からない。しかし、私は確かに右脳人間かもしれない。生来のものか日々の生活の中で獲得したものか分からない。たぶん両方で、日々の生活の中で獲得したものの割合の方が多いのだと思う。こんなことで、いまの私の能力的な競争力はたぶん右脳力、つまり、構想力、設計力、未来予測力にあるのだと認識させられた。

 いまから思えば私の左脳力は高くなかった。例えば小学生のとき、理科と社会はいつも5段階評価で5だったが、算数は4に落ちたこともあった。高校生のとき、数人の友人と定期的に数学の家庭教師レッスンを受けていたとき、教えてくれた高校の数学教師に言われた言葉を今も覚えている。

 「本当に頭のいい人は代数より幾何が得意な人だと言われてますね」。

左脳を駆使してアメリカズカップに取り組む

 左脳力を鍛えるには訓練しかない。だから私は社会人になってから、左脳力を鍛えながら仕事をしてきた。40歳になったときにはかなりのレベルになったことが実感できた。

 2000年のアメリカズカップに挑戦することを1995年に決め、新しい勝てるヨットの開発を開始したとき、47歳の私は徹底的にデジタル・シミュレーションを使うことにした。そのために3年がかりで開発したシミュレーション・ソフトウェアも完成に近づいていた。それまで私はヨット設計の素人だった。ヨット以外ならほとんどすべての船の設計で世界の先頭を走っていたのだが、エンジンのない自然の力まかせの船に対しては全くの素人と言ってよかった。だから、私に競争力があるデジタル・シミュレーションに最大限のパワーを注入して――つまり左脳的な設計経験を最大数重ねて――最適設計解にもっていく戦略をとるしかなかった。

 経験の浅い日本ヨット界、経験がほとんどないまま技術開発責任者になった私にとって他の選択肢はなかった。何のアドバンテージもなく世界一を目指すのは単なるスタンドプレーにすぎない。経験の浅い私たちにとって左脳的アプローチは、開発のための必然の経営法だった。だから左脳的な技術開発を、競争相手の10倍の努力で行い、勝って世界一になろうと思った。

右脳も鍛えられていた

 丸4年間、私たちはヨット設計を左脳的に行う、つまり連日コンピューターシミュレーションと実験を操り返す日々を続けた。左脳とコンピューターを必死に使っているうちに、ほとんど世界最速のヨットの設計が進行していった。そのとき、私の頭脳の中ではヨット設計の右脳力も並行して養われていったようだ。

 4年間左脳力を鍛えているうちに、ヨット設計のための右脳力が養成されていたようなのだ。それに最初に気が付いたのは2000年のアメリカズカップ艇のヨット「阿修羅」「韋駄天」が完成して、蒲郡沖の三河湾を帆走したときだった。デジタルなデータに頼らなくても、自分の設計したレーシングヨットの完璧さを感覚的に感じ取れたのだ。

 その2カ月後の9月には、世界から集まった11のシンジケートがレースのための艇をニュージーランドのオークランドの港に運んできた。4年間の艇の開発をコンピューターシミュレーションと実験で行う、つまり左脳的な開発を主導してきた私の最大の競争相手は米国やEU諸国のヨット文化に支えられた右脳的な設計だった。左脳的な設計力の優位性は国際学会や論文で分かる。しかし、右脳力が設計や産業競争力に及ぼす力には不気味なものがある。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など



このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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