「クロサカタツヤのケータイ産業解体新書」

コンテンツ供給者の都合で、消費者の意識は変わらない

「所有から利用へ」、いよいよ舵は切られたが・・・

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2010年11月25日(木)

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 「Spotify(スポティファイ)」というサービスをご存じだろうか。

 一部のウェブメディアなどで見かけるようになったこともあり、ネット業界の最新動向に関心のある方なら見聞きされているかもしれない。2008年に欧州でサービスを開始した、P2P(Peer to Peer=ピア・トゥ・ピア)技術を用いたネット音楽配信サービスの1つなのだが、既に彼の地では「使っていない人はいない」と言われるほどの大ブームとなっている。最近は、米アップルや米グーグルがM&A(買収・合併)を狙っているという噂話で持ち切りである(参考:「欧州発! ビジネス最前線 “iチューンズ殺し”の衝撃」)。

 またP2Pというと、日本では「違法配信」というイメージが根強く残っているが、もともとはサーバーを介さず端末を直接つないでデータ転送を行う、データ転送の技術方式の1つである。品質や流通状況などを管理しづらいという課題はあるものの、それらは技術力によって補うことが可能で、うまく使えば高品質サービスをローコストに実現できる。インターネット電話の「Skype(スカイプ)」もP2P技術を採用しているが、こうしたサービスが実用段階にあるのは、KDDIがSkypeを全面的に採用したことからも明らかだろう。

 実際、Spotifyは、P2P音楽配信の黎明期にあったような、違法配信ではない。ソニー・ミュージックエンタテインメント(日本と米国を除く)、英EMIグループ、米ユニバーサル・ミュージック、米ワーナー・ミュージック・グループなどの錚々たるメジャーレーベルはもちろん、独立系レーベルなどとも手を組み、合法的に(つまり正当なビジネスベースで)サービスを行っている。レコード会社の方針などもあり、現在はまだ米国と日本という世界1位と2位の音楽市場への上陸を果たしていないが、米国でのスタートは目前と噂されており、日本も早晩検討の遡上に乗ることになろう。

 海外出張の機会も多いので、筆者はこのサービスを既にあちこちで目にしたり触れたりしているが、率直に言って、あらゆる従来サービスに比べて圧倒的に完成度が高い。ラインナップも拡充されており、それこそ日本人のメジャーアーティストの作品も、欧州では楽しむことができる。一度この世界に慣れてしまうと、正直、アップルの音楽配信サービス「iTunes(アイチューンズ)」はちょっと古いかもしれない、とさえ感じてしまうほど。アップルがM&Aを狙うという噂話が出るのもさもありなん、といったところだ(筆者註:実際にはSpotify側が公式に否定のコメントを出している)。

 そして、気がつけばかれこれ20年近くネットを触ってきた筆者は、このSpotifyに触れて、「所有から利用へ」というネット普及の黎明期から喧伝された古くて新しいキーワードが、いよいよ現実のものとして見え始めたように感じるのだ。

コンセプトは、ネット普及以前からあった

 その前に改めて「所有から利用へ」というキーワードをおさらいしておこう。端的には、ネットの普及と高度化に伴い、アプリケーションやデータを手元の環境(ローカル)に所有するのはもはや古くて、これからはネット上にあるアプリケーションやデータを使いたい時(オン・デマンド)に利用するのが新しいスタイルだ、という考え方である。

 それ自体は、ネットの普及以前から存在した。例えば情報システムがメインフレームによって構成されることの多かった時代、アプリケーションもデータも基本的には中央に集約されていて、ユーザーはそれをダム端末経由で引っ張り出すという作業を行っていた。またスーパーコンピューターのタイム・シェアリングのような使い方も同様で、集約された資源を回線ごしに共有するというスタイル自体は、歴史的に考えれば「完全に目新しい」という代物ではない。

 ただ、メインフレーム時代の後に「ダウンサイジング」のかけ声で一気に普及したパーソナルコンピューターの時代が、気がつけばもう30年以上経過して、完全に一時代を築いた。その間、「アプリケーションはパッケージで買ってくる」「データは手元に置く」というパラダイムが、完全に定着した。これは2010年現在でもまだ現役で、パソコンを買えばやはりOS(基本ソフト)がDVDなどのパッケージメディアで付属しているし、ハードディスクドライブの容量は相変わらず拡大競争を続けている。

 それでもここ数年、通信環境の高度化と計算機資源の向上、そしてそれに伴うコストダウンによって、SaaS(Software as a Service、サース)やクラウドコンピューティングといった概念が急速に広まった。従来は、こうしたネットを介した資源集約の動きに対して「それでもねえ・・・」と躊躇する動きが巻き返すといった振幅を繰り返していたが、どうやらそろそろ舵が切られたと言ってよさそうな状況である。

 また、こうしたネットコンピューティング環境全般の向上によって、「仮想化」という技術の普及が始まっている。具体的には、サーバーとクライアントの両者を統合環境として取り扱ったり、物理的には単一のハードウェアやシステムを論理的・仮想的に複数あるように使ったり(例えば1台のマシンに見かけ上は複数のサーバーを設置するなど)というものだ。こうした技術の向上と普及が進めば、もはや「サーバーとクライアント、ローカルとネット」といった区分自体が無意味となる。

 ネット利用を前提としたコンピューティングは、既にそうした新たなパラダイムに足を踏み入れつつある。その新たなパラダイムが、「所有から利用へ」の動きと歩調を合わせ、むしろ加速させているように、筆者には感じられるのだ。

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著者プロフィール

クロサカ タツヤ(くろさか・たつや)

クロサカ タツヤ 1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事する。2007年1月に個人事務所を開設。現在は戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)代表取締役。



このコラムについて

クロサカタツヤのケータイ産業解体新書

19世紀がヒトとモノ(物質)、20世紀がマネー(金融)のエコノミーだとしたら、21世紀は何か。この質問に対する、有力解の1つは「ビット(情報)のエコノミー」だろう。現実に、中南米やアフリカを視野に入れたケータイの普及という形で、ビット・エコノミーを構築しようと国や企業が動き始めている。「ガラパゴス」日本にチャンスはあるのか。世界で思惑がうごめくケータイ産業の最前線を描く。

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