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日立は「技術の経営判断」ができるのか

10年がかりの“HDD事業の売買劇”が残した教訓

2011年3月10日(木)

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 「またしてもグローバル事業から撤退か。やむを得ない決断なのだろうが・・・」。3月7日夜、9年前に自分が書いた記事を読み返し、こんな感想を抱いた。

 7日夜、日立製作所の中西宏明社長がハードディスクドライブ(HDD)事業の売却を発表する記者会見に臨んだ時、情けないことに筆者は自宅にいた。インターネットに流れた速報を読み、HDD事業の売却を知って驚き、会見不参加を悔やんだ。

 それから始めたのは家探しであった。さほど時間をかけずに目当ての雑誌を発掘できた。日経コンピュータ誌の2002年4月8日号である。表紙には『日立と米IBM、ストレージ事業の統合で交渉』と刷ってある。中を開くと、『特報 日立がストレージ事業を分社へ 米IBMに出資と事業統合を打診』という見出しを冠した、見開き2ページの拙稿が出てくる。

学ぶべきは「技術の先を読んだ経営判断の難しさ」

 9年前、2002年の2月から3月にかけて筆者は、日立とIBMがストレージ事業で何かをする、という話を聞きつけ、裏を取るために走り回り、あちこちに電話をかけていた。その成果が2ページの記事であった。今になって、特報という文字を見ると、いい気なものだと思うが、「付けてほしい」と進言したのか、編集長が付けてくれたのか、記憶がない。

 その記事を掲載してからほどなく、2002年4月17日、日立はIBMとストレージ分野における戦略提携を発表した。骨子は、日立とIBMのストレージ事業を統合する、というものだった。

 こう紹介してみると、拙稿はなかなかのスクープであったように見える。しかし、実はそうではない。

 記事の見出しに使った「ストレージ事業」という名称に、HDDを生産・販売していたストレージ事業部だけではなく、HDDを使ったストレージシステムを開発・販売する「RAIDシステム事業部」まで筆者は含めていた。つまり、HDDという部品だけでなく、それを使ったシステム商品についてまで日立はIBMと事業統合する可能性がある、と報じてしまった。実際には、HDD事業の統合にとどまったので、「特報」と威張れる内容ではない。

 とはいえ9年前の拙稿に出てくる小見出しを拾うと、「ストレージは日立最大の戦略事業」「売り上げは伸びるが利益は出ない」「IBM製HDDの品質にトラブル」などと書いてある。これらの情報は、日立が主演した“HDD事業売買劇”を評価するために重要である。この劇は上演に10年かかった。日立がIBMのHDD事業統合を検討し始めたのが2001年だったからである。

 10年後の2011年3月8日付日本経済新聞を見ると、「最大の課題決着」「財務も改善に向かう」「売却で得た資金を主力の社会インフラ分野にどう投じるか」といったことが書かれており、日立の決断を前向きに評価している。

 日経が書いている通りなのだろう。だが、売買劇の教訓として「海外企業の経営がいかに難しいかを日立は学んだ」としている点には異論がある。確かにグローバル事業の舵取りは難しかったが、それに加えて学ぶべきは、「技術の先を読んだ経営判断の難しさ」だと思うからだ。この教訓は日立だけではなく、日本のすべての技術企業にとって有用である。

日立の損得を考える

 HDD事業の売買を巡る損得を考えてみよう。プラス材料を8日付日経の記事から拾ってみる。中西社長は会見の冒頭、「今回の売却でHGSTのトータル収支はドルベースでかなりプラス。円換算でもプラス」と語り、胸を張ったという。

 金額を復習してみる。2002年6月4日、日立はIBMのHDD事業を20億5000万ドルで買収すると発表した。日立は3年間の分割払いをするとしていたが、当時の為替レートで換算するとざっと2500億円になる。2003年1月に「日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)」を設立、続いて4月に、日立のストレージ事業部をHGSTに統合した。それから8年後、日立はHGSTを43億ドル(約3500億円)で米ウエスタン・デジタルに売ることを決めた。ドルベースで見るとほぼ2倍の値段になった。

 日経は8日の記事で「(HDD事業は)一時は累積赤字が1200億円規模に達した。これが同社のM&A(合併・買収)の足かせとなっていたが今回、区切りをつけた」と書いている。また、中西社長は「グローバル企業を経営する経験を日立全体として積むことができた」とも述べた。なかなか利益を出せなかった事業を損切りすることなく手放せ、その間に経験を積めたのであれば、売買劇は日立にとってプラスだったと言える。

 マイナス材料はないのか。経緯からお分かりのように、20億5000万ドルで買ったIBMのHDD事業を43億ドルで売ったわけではない。日立のHDD事業を足している。長年にわたってHDDの基礎研究や製造技術の開発に投じてきた資金、HGSTを立て直すために送り込んだ人材、追加投資、費やした時間をどうみるか。これらは金額換算が難しいし、償却済みのものもあるから計算には入れないのだろうが、「トータル収支はプラス」とは言いにくい気がしてならない。

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「日立は「技術の経営判断」ができるのか」の著者

谷島 宣之

谷島 宣之(やじま・のぶゆき)

日経BP総研

一貫してビジネスとテクノロジーの関わりについて執筆。1985年から日経コンピュータ記者。2009年1月から編集長。2015年から日経BP総研 上席研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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中谷 巌 「不識塾」塾長、一橋大学名誉教授