「時事深層」

製品全面回収、企業に関門

法改正の圧力じわり、プライバシーなど壁に

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2006年11月6日(月)

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 「夢暖」「レンジで湯たんぽ」――。10月、こんな名前の湯たんぽの回収が呼びかけられた。要請したのは製造元のADEKA(旧旭電化工業)だ。電子レンジで温めて使う“現代型”だが、加熱し過ぎると容器が破裂、中身が飛び出し、やけどを負う恐れがある。ADEKAは問い合わせ窓口を設けるなど、回収に躍起だ。

 今、製品の回収を急ぐメーカーが相次いでいる。昨年11月から本格化した松下電器産業の石油温風機、今年7月にはパロマ子会社のガス湯沸かし器。9月にはソニーがパソコン用バッテリーを回収すると発表した。

 ADEKAが松下電器やパロマと共通するのは、「古い製品」である点。回収対象の湯たんぽは1998年時点で生産・販売を終えている。事故も96年に起きて以来、99年は8件、2001年は6件あったが、2002〜2005年は1〜3件と減少傾向だった。そんな矢先、今年7月に事故が起き、改めて回収強化に動いた。

企業の自主回収は規模も件数も膨らむ一方

最後の1点まで懸命

 各社が「最後の1製品まで」と懸命になるのには訳がある。それは経済産業省が成立を目指す消費生活用製品安全法の改正案の存在だ。死亡事故や重症事故が起きた場合、メーカーや輸入業者は事故内容や製品名の報告を義務づけられる。今の臨時国会で審議中で、可決・成立すれば来春にも施行される。ADEKAの飯田明取締役は「法改正への動きが頭にあった」と回収の動機を明かす。

 法改正はパロマ事故やシュレッダーによる子供の指切断などがきっかけ。経産省は企業に報告を求めることはあっても義務ではなく、対策は後手に回った。改正後は報告を怠ると体制整備命令が出され、違反者は懲役1年以下または100万円以下の罰金。経産省は報告後約1週間以内に、製品の欠陥の有無にかかわらず「ガス湯沸かし器」というような一般名称と事故内容を公開する考え。「製品の欠陥の有無を明らかにするのは時間がかかる。早めの注意喚起が必要」(経産省)としている。

 その後、経産省は事故原因を解明し、欠陥があるとした場合などは、社名、製品名も公表する。被害状況を見て製品回収の行政命令を出すこともある。

 1995年に製品の欠陥による損害を被ったと証明した時に被害者は企業に損害賠償請求ができるとしたPL(製造物責任)法が施行された際も、企業は商品説明書を詳しくするなど対応に追われた。だが、今回の法改正は当時以上のうねりを生んでいる。

PL法施行時よりも反応敏感

 改正案がPL法と異なるのは、「危険情報」を広く知らせることにある。

 「日本は米国ほど高額な損害賠償責任を負わない。むしろ日本では訴訟よりも自社の危険情報が世の中に広がる方が、リスクが高いと考えることが多い」と経産省の担当者は指摘する。製品不良などにより企業の評判が悪くなる「レピュテーショナルリスク」を逆手に取る作戦。「この方が日本企業には効く」というのだ。

 改正案では仮に事故が起きた場合、1件でも報告義務が生じる可能性がある。そうなると一般名称と事故内容が公開され、後で欠陥がなかったとしても、業界の負ったマイナスイメージは拭いきれない。そのうえ行政命令で回収となれば自主回収よりも消費者に与えるイメージは悪くなる。

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著者プロフィール

大竹 剛(おおたけ つよし)

1998年、デジタルカメラやDVDなどの黎明期に月刊誌「日経マルチメディア」の記者となる。同誌はインターネット・ブームを追い風に「日経ネットビジネス」へと雑誌名を変更し、ネット関連企業の取材に重点をシフトするも、ITバブル崩壊であえなく“休刊”。その後は「日経ビジネス」の記者として、主に家電業界を担当しながら企業経営を中心に取材。2008年9月から、ロンドン支局特派員として欧州・アフリカ・中東・ロシアを活動範囲に業種・業界を問わず取材中。日経ビジネスオンラインでコラム「ロンドン万華鏡」を執筆している。



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