厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で進められている労働法制の改革論議に対して、経済同友会は11月21日、『「労働契約法制」及び「労働時間法制」に関する意見書』を公表した。日本版ホワイトカラー・エグゼンプション制度などについて慎重な姿勢を示し、推進派の日本経団連とは一線を画した。その真意を、小島邦夫副代表幹事に聞いた。(聞き手は、日経ビジネス編集委員=水野 博泰)
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NBO 今回の労働法制改革に対する経済同友会の基本的なスタンスは?
小島 今までの労働法制は、こう言うと叱られるのかもしれないけれど、時間によって働いている人、一番典型的なのは工場労働者ですけど、そういう人を前提に法制が出来上がっていたわけです。
そういう中で、いわゆるホワイトカラーと呼ばれる事務職、さらに、時間ではなくて仕事の成果で評価されるべき知識労働者が増えてきている。そういう人たちに適用される労働法制が、今までのような時間で働いている人たちと一緒でいいのかという問題意識がずっとあったのです。
ライフスタイルの多様化に労働法制が追いついていない
ライフスタイルが多様化しています。IT(情報技術)の進歩、育児や介護といった新たな課題が出てきている。社会が大きく変わる中で、時間とか場所に縛られない働き方の模索が始まっているわけです。そういう変化に対して、今までの労働法制が対応できているかというと必ずしもできていない。
この議論は、もっともっと深めていかなければいけない。知的労働者ということだけを考えても、自律的に働くということはどういうことなのか、どうしたら成果をきちっと出していけるのか。そういうことを考えていくと、ここからここまでの時間は働きましょう、その先は時間外手当をつけますね、という考え方に縛られずに、働く人にもっと自由度や裁量権を与えてもいいのではないかというのが、基本的なスタンスです。
NBO 経団連とは少し考え方が違いますね。
小島 経済同友会では、「多様な人材の活用委員会」を設けて、多様な働き方や、働き方に応じた賃金の決め方をずいぶん議論しています。“ホワイトカラー・エグゼンプション”を導入して、ホワイトカラーにはもう時間外手当はつけない、人件費を抑制しようという発想ではないし、そうであってはいけない。意見書にはそういう考え方を盛り込みました。
みんなに自律的に働ける、そういう働き方が活用されるということになれば、企業にとっては付加価値、生産性、競争力が高まるという効果が出る。労働者にとっては、自己実現、能力の発揮、健康管理といった面でプラスになる。同友会が主張している仕事と生活を調和させた「ワーク・ライフ・バランス」の実現に近づくことができる。
大きな流れとしてはそういう方向に行きたいと考えていますが、そういう理念のところがしっかりと共有されないままに、各論に入ってしまうと、いろんな意味で動揺が起きてしまうんだと思います。
そもそも、日本のホワイトカラー、知的労働者の働き方の実態をきちんと検証しなければならない。ホワイトカラー・エグゼンプションは自律的労働時間制度と訳されていますが、自律的に働くとはどういうことか、自律的に働けている人はどのぐらいいるのかということを知らなければいけない。突然、お前さんはホワイトカラーなんだから時間外手当はつけないと言われれば、誰だってショックを受けますよ。
長時間労働を是とする経営者ばかりではない
僕ら経営者だって、長時間労働が良いなどとは思っていません。もちろん経営者にもいろんな人がいますが、ほとんどの経営者は、社員に深夜まで居残って働いてもらうこと、そういうことが常態化することが決して良いことだとは思っていない。時間内にそれぞれの仕事をきっちりやってもらって、あとは自分の生活のことを考えてほしい。
だから、日本の企業社会における長時間労働を前提にものごとを考えるんじゃなくて、自律的に時間の調整をし、ワーク・ライフ・バランスを考えながら仕事をしていくということになっていかないとこの制度は生かせないんですよ。経営者と社員の双方が、働くということへの意識を十分に成熟させないとうまくいきません。
NBO 労働者側からすれば、時間の制限を外されて無制限に働かされるのではないかと思ってしまう。
小島 そんなことは決してないと思います。今でも、管理職はそういう賃金体系になっている。ホワイトカラー・エグゼンプションはとりたてて新しいことではありません。管理職になった時に給料が上がりますよね。それは、今までの時間外手当の分を補償しているわけです。ホワイトカラー・エグゼンプションが導入されたら、「明日から時間外手当はつけないよ」という単純な話ではなくて、ある程度の時間外手当分を上乗せした給料にして、そこからスタートするということになるはずです。
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