• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

「本田宗一郎」がここにいる!
ホンダOBが駆けつけるある映画

  • 新楽 直樹

バックナンバー

2007年2月9日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 昨年末、ある洋画の日本公開が決まった頃、ホンダの社友(OB)たちの間でこんな噂が飛び交い始めた。「外国でおやじさん(本田宗一郎)が主人公の映画ができたらしいぞ」――

(C)2005 WFI Productions, Ltd.

(C)2005 WFI Productions, Ltd.

 映画のタイトルは「世界最速のインディアン」(原題:The world's fastest Indian)。アカデミー賞俳優、アンソニー・ホプキンスが演じる主人公はもちろん本田宗一郎ではなく、伝説の米国製オートバイ「インディアン」を駆ってバイクの世界最高速記録達成に生涯を捧げた実在の人物、バート・マンローだ。

 彼はニュージーランドの片田舎で、油まみれになりながら「インディアン」の改造を続け、自費で米国に渡った。世界記録を達成したのはなんと63歳の時。その後も世界最速の夢を追い、記録を更新し続けた。1978年に亡くなったが、1000cc以下の流線型バイク世界最速記録は今も彼のものだ。

試写に訪れるホンダOB達

試写に訪れるホンダOB達

 1月29日、配給元ソニー・ピクチャーズエンタテインメントの試写室に行ってみた。それまでもぽつぽつと試写に訪れるホンダOBがいたが、今回は本田技術研究所で数々の名車の開発に取り組んだ技術者、宗一郎の秘書、ホンダの名を世界に知らしめた伝説の「マン島TTレース」のレーサー、メカニック、F1エンジンの設計者と、創業期を支えた人々がずらりと並んだ。いずれも、本田宗一郎を愛情を込めて「おやじさん」「お父さん」と呼ぶ人たちだ。

 上映終了後には、映画の感想と、宗一郎の記憶を口々に語り合う姿があった。

 「世界最速のインディアン」の主人公を通して、ホンダOBたちが見たものは何か、彼らの心に焼きついた宗一郎とはいかなる人物だったのか――。映画を鑑賞した直後のOBの1人に聞いてみた。

(編注:記事の性格上、若干の「ネタバレ」を含みます。ご注意下さい)

木澤博司(きざわ ひろし)

木澤博司(きざわ ひろし)

1963年、本田技術研究所に入社。ホンダ製4輪車の黎明期であった当時に、S800、S360といった“伝説の車”の開発プロジェクトに参加。その後、主任研究員として初代シビック、アコード、プレリュードの開発現場で陣頭指揮を執る。85年には専務取締役となり、初代ホンダR&Dヨーロッパ社長に就任。現在は社友としてホンダの発展を見守っている。

―― まずは率直に映画の感想を――

 じーんとしました。いい映画ですよ。主人公がオートバイに注ぐ愛情と執念は、お父さん(宗一郎)そのものです。ああ、それはじっくり話すとして、先にひとつだけいいかな、翻訳で気になるところが。主人公のマンローが自分の作業室でオートバイのシリンダーを製造するシーンなんだけど、「アクセルを・・・」って字幕が出てた。でも実際は、あそこは「アクスル」だね。

―― あの場面、試写室の場内が「ん」「おいおい」と、ちょっとざわめきましたね。さすがホンダOB連だと実は思ってました。

 翻訳の人がアクセルペダルだと勘違いしたのかな。本筋に影響はないが技術屋としてはちょっと、ね。

 ニュージーランドの小さな町で、オートバイの改造とスピードに人生を捧げた主人公と、お父さんの人生はまったく違うもの。それでも私たちのように、お父さんから直接怒られた世代としては、重なる部分が多いんです。

 私は1963年に本田技術研究所に入社して、4輪車の開発部署に配属されたんです。今でこそホンダの車は世界をリードしているけど、当時はそれこそ試行錯誤。業界のトレンドが水冷式に移行しようという時に、お父さんだけが空冷式にこだわったりして、現場はたいへんなことになっていた。我々は、当時は2輪車開発の連中に食わしてもらってたわけです。

開発現場からは「引退」しなかった宗一郎

 お父さんはとにかく開発の現場に足を運んだ。「経営からは潔く退いた」と、世間的にはそういうことになっていたし、事実退いたんだけど、ものづくりからはどうしても離れられなかった。私の記憶では週に2回は現場にやってきて、「これ、誰が作ったんだ!」と怒鳴ってましたよ(笑)。

 映画でも主人公のマンローが自分で金属を金型に流し込んで部品を作ったり、タイヤをナイフで削ったりするシーンがあるけど、お父さんもあんな感じだった。とにかく頭の中に理想とする設計があって、トップになってからも納得のいかないものには自分で手を出す、口を出す。もちろん、私たちも言われっ放しではないんだけれどね。「お父さんの言う通りやってたら、ホンダの4輪車は終わる」と思ってたからなぁ。

―― 宗一郎氏と、主人公の姿が最も重なるのはどのシーンですか?

 主人公がガソリンタンクの栓に「軽いから」と、ワインのコルク栓を使うシーンとかかな。もちろん実際にお父さんはそんなことはしなかったけれど、その発想というか、誰もが思いつかないアイデアをポッと出して実行するところがそっくりだね。

 お父さんとマンロー、両方の根底にあるのは、はっきりした目的と、そのための純粋な発想です。常識にまったくとらわれない。

 主人公がニュージーランドから世界最速を競うイベントが開催される地、ユタ州のボンヌヴィルに自力でオートバイを運ぶんですが、途中、オートバイを載せて牽引していた台車の車輪が外れて立ち往生しちゃう。でも、主人公は自暴自棄になることもなく、近くに落ちていた枯れ木を使って応急処置を施した。「おぉ、お父さんだったら絶対に同じことをするな!」と思いました。

―― 主人公の破天荒なキャラクターもさることながら、発想や哲学も共通しているのですね――

 ええ。お父さんはとにかく時間を大切にする人だった。だから、速い乗り物を作ることに挑み続けたんです。「モビリティ」という考え方の原点ですね。一般の人は生涯世界最速にこだわった主人公の姿を見て、ロマンティックだなと感じると同時に、やっぱりちょっと変わった人間だと思うでしょう。でも、「速く走ること、世界最速を目指すこと」は人間としても企業人としても、そして技術屋としても真っ当な発想だし、正しい行為だと思う。

はた迷惑な主人公は、なぜ愛されるのか

―― とはいえ、主人公、バート・マンローは純粋な分、人の迷惑を顧みない型破りなところがあります。言ってしまえば、はた迷惑な異端の人でもあります。宗一郎氏があのような人物であったならば、周囲の人たちは大変ですよね。なぜ、支えよう、ついていこうと思ったんでしょう。

 はた迷惑という点は、まったくその通りです(笑)。映画の中で主人公は、近所の住人にエンジンテストの騒音で迷惑をかけたり、ライダークラブの仲間や恋人から渡米費用を募ったり、行く先々で出会った人を面倒に巻き込んでいきますよね。

―― そばにいたら、たまったもんじゃないかもしれません。

 でも、「夢を追う人、人間的な、純粋な人を支えたい」と思うのは、人間の自然な気持ちじゃないかな。お父さんと私たちの関係もまさにそうです。人間的な人というのは、一つひとつの成功を心の底から喜べる人だと思う。成功を目指せば軋轢も生じるし恨むこともあるけれど、結局一緒に働けたことに感謝してしまう。

―― 宗一郎氏は怒るとげんこつが飛び、スパナを投げつけてくるという伝説がありますが。

コメント13件コメント/レビュー

>ホンダの社員です。さん、現状はよくわかります。私も社員ですからよく理解できます。でも諦めてはいけない。絶対諦めちゃいけないんです。あなたも社員なら、社員が立ち上がらないといけない。ここのコメントを読めば、まだどれだけ愛されているか、期待されているかがわかると思います。現状の一番の問題は、このような「期待される企業」であることを社員自らが諦めちゃう風潮です。あなたも社員なら、社員が「期待」を否定してはいけない。そんなことしたら、あなたがおっしゃるとおり本当に「つまらない会社」になってしまいます。(2007/05/08)

「話題閑題」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

>ホンダの社員です。さん、現状はよくわかります。私も社員ですからよく理解できます。でも諦めてはいけない。絶対諦めちゃいけないんです。あなたも社員なら、社員が立ち上がらないといけない。ここのコメントを読めば、まだどれだけ愛されているか、期待されているかがわかると思います。現状の一番の問題は、このような「期待される企業」であることを社員自らが諦めちゃう風潮です。あなたも社員なら、社員が「期待」を否定してはいけない。そんなことしたら、あなたがおっしゃるとおり本当に「つまらない会社」になってしまいます。(2007/05/08)

この記事を読む前に映画を観ました。記事を読むまでは、本田宗一郎氏との連想は浮かびませんでした。マンローの「危険が人生に味をつける。リスクを恐れちゃいかん」といった言葉が印象に残る映画でした。(2007/02/14)

良い記事だった。究極の「内部告発」(笑)で、ホンダの、宗一郎氏の理想と哲学が浮き彫りになった。パワステの軽さなど、かつてのホンダ車の特徴の源は本当に「宗一郎」にあったのだと知り感動した。もちろん、(特にパワステ)批判もあっただろうが、モノ創りにかける情熱と一流のプライドがあったことを証明する素晴らしい証言だ。ホンダの話で映画を直接に紹介する記事ではなくなってしまったが、「宗一郎」との相乗効果で映画にも大いに興味を抱いた。映画宣伝の仕掛けの視点、記事の視点、共に高度だと感じる。(2007/02/14)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

面白い取り組みをしている会社と評判になれば、入社希望者が増える。その結果、技能伝承もできるはずだ。

山崎 悦次 山崎金属工業社長