東京地方裁判所が、上場企業の間で近年盛んになった経営手法に目を光らせている。東京地裁の民事8部、通称「商事部」の裁判官らは、非公式の会合で米国の事例研究や国内の関連論文の収集を進める。
その手法とは、上場企業の経営者が投資ファンドなどと組み、株主から株式を買い取って非公開化するMBO(経営陣による企業買収)だ。外食のすかいらーく、青汁のキューサイ、東芝子会社の東芝セラミックス、焼き肉チェーン「牛角」を展開するレックス・ホールディングス…。M&A(企業の合併・買収)仲介業、レコフの調べによると、2006年に実施されたMBOは前年比19.4%増の80件。急激に件数が増えており、大型案件も目立つ。
水面下ではさらに活発な動きがある。M&Aに詳しい弁護士は、「相談段階まで含めれば、数え切れないほどのMBO案件が舞い込んできている」と表現する。まさに、MBOブーム到来といった雰囲気だ。
「MBOにからむ訴訟は、いつ起こってもおかしくない状況になってきた。裁判所は今、そうした事態に向けた準備に余念がない」。ある司法関係者はこう漏らす。裁判所も初のMBO案件が舞い込んでくることを想定して動いている、というのが現状だ。
果たして裁判所はMBOの何が争点になると見ているのか。最大のポイントは、MBOを手がける側が設定する株式買い取り価格だ。
MBOを実施する際には、企業の現経営陣が投資ファンドと組んで会社に買収を仕掛けることが多い。買い手と経営陣がほぼ同一のため、そもそも利益相反を生みやすい構図を抱える。
買い取り価格を巡っては、「企業価値を精査するというより、投資ファンドが銀行からどれだけ融資を引っ張ってこられるかで買い取り価格は決まることが多い」(ある弁護士)という指摘もある。買い手側にとっては高い株価は必要な資金の増加につながる。安く買うため恣意的に株価を下げるような発表を不適切な時期に行っていないか。そうした株価操作の有無などが、今後法廷でも焦点になってきそうだ(次ページの囲み記事参照)。
個人株主が当局などに要望書
MBOが持つ不透明さに関心を寄せるのは裁判所だけではない。株式の買い取りを求められる個人株主の側にも反発の動きがある。
「少数株主に被害をもたらすMBOを許すな」
個人投資家の連名によるこんな要望書が近く、金融庁や東京証券取引所、ジャスダック証券取引所に対して提出されることが分かった。
要望書では、株式の買い取り価格に関連するルールの整備を求める予定だ。MBO発表前に意図的に株価を引き下げた疑いがある場合は、過去1年間の株価の最高値を下回る金額でのMBOを認めないことや、裁判所など第三者による買い取り価格算定を義務づけることなどが具体的な要求だ。
要望書の提出に向けて動いているのは、レックスのMBOに不満を持つ個人投資家らで構成する「アドバンテッジ被害者牛角会」。レックスは、昨年8月末に業績の大幅な下方修正を発表し、株価は急落。その直後に、レックスの創業者は投資ファンドのアドバンテッジパートナーズとともにMBOを実施した。
現在100人以上が参加しているこの会では、レックスの買い付け価格が低過ぎると主張している。要望書を提出するに当たり、レックス以外の株主にも広く参加を呼びかけたところ、1月22日にMBOを発表した機械部品メーカーのツバキ・ナカシマの株主などの個人投資家が賛同するといった広がりを見せている。
会の代表を務める山口三尊氏は憤る。「少数株主が損をするMBOが次々と出てくれば、個人は怖くて株式投資ができなくなる。どんどん狡猾になる投資ファンドに対抗するには、個人株主も行動を起こして戦うノウハウを蓄積していくしかない」。
MBOを表明した会社が手のひらを返したかのように、個人投資家を突き放す態度に変わることにも怒りが広がっている。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。




からのご案内




