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地方の闇~詐偽師Xと夕張市~

「三位一体改革」が最後のタガ外し、地方大暴走の恐れ

2007年2月21日(水)

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 以前、親しい友人と食事していた時、「俺の知り合いに、とんでもないやつがいるんだけど……」と、ある男のことを話し始めた。友人の独演会は延々2時間に及んだが、全く退屈しなかった。

生涯一詐欺師が狙いをつけた「村おこし」

 男の名前を仮にX(エックス)としよう。友人によると、「生涯一詐欺師」だそうである。

 高校時代、Xは本、ウォークマン、スキーウエアなどを万引きし、始業前の教室の「朝市」で売りさばいていた(進学校だったので、大学入試の過去問題集である「赤本」がよく売れたという)。また、老人を狙ったひったくりもやった(事件になって新聞に出たが、Xは尻尾をつかませなかった)。

 父親は公務員だったが、Xは「勉強して、一流大学に入って、公務員になるなんて最低だ。俺は親父のようなつまらない人生は送らない。世の中何でも金で買えるんだから、金儲けするのが一番手っ取り早い」と言っていたそうである。このあたりは、ホリエモンの先駆けである。

 東京の大学に進学してからは、金持ちの女子大生を騙して財布を抜き取り、大学の学園祭では模擬店の店番をして売り上げを抜き取り、ヤクザがやっているゲーム賭博の店番をして売り上げを抜き取り、といった生活を送った。相手にばれないように、抜き取る金額やタイミング、被害者へのトークに様々な工夫をこらすので、友人は端で見ていて感心させられたそうである。

 大学を卒業後、サラリーマンを1年ほどで辞め、自分で事業を起こし、観光運輸業などを手がけた。中にはうまくいったものもあり、それを売却して、また別の事業を始めた。結婚は、資産家の娘を騙して結婚し、いったんは妻の実家が経営する会社の幹部に納まったが、従業員の女性に手をつけて、子会社の1つを手切れ金に放逐されたそうである。

 ひとつ所に3年以上住まず、事業がうまくいくとすぐ売却して別の事業に注ぎ込み、資産を持たず、いつでも逃げられるように生活しているという。趣味は、マリファナを吸いながらクラシック音楽を聴くこと。

 そのXが、数年前に手がけたのが、「村おこし詐欺」である。

莫大な補助金が「ハコモノ事業」で“食い物”に

 日本では、地方自治体に様々な金が付く。特に過疎地は「過疎債」という、発行体は元本の3割だけ償還すればよく、残り7割は丸々もらえる債券を発行できる(残りの面倒を見るのは地方交付税である)。そのほか、農林水産省が所管する中山間地域総合整備事業、農山村地域就業機会創出緊急特別対策事業、構造改善事業、国土交通省が所管する都市公園事業など、様々な名目で出る補助金や交付金があり、例えば、北海道の由仁町(人口約6500人)はこうしたカネをフルに活用して、国内最大級のハーブガーデンを作った。総工費40億6000万円のうち、町と地元の農協が出資したのは、わずか5580万円である。

 Xは「村おこしコーディネーター」という肩書きを作り、関係者を接待して「村おこしをやって、町を全国的に有名にしましょう」と、ハコモノ事業を売り込んだ。

 1年余り前、私は、Xが手がけたある農村のハコモノ施設を取材で訪れた。

 総事業費約18億円をかけた、温泉、露天風呂、マッサージ室、レストラン、喫茶店、大小宴会場、売店、農産物直売所などがある一大複合温泉施設であった。資金の大半は、過疎債と地方交付税を積み立てた「ふるさと基金」からで、村の一般会計からの拠出は2億円余りにすぎない。村は人口4000人ほどの過疎の村で、日中は通りにほとんど人影がない。墓と、刈り取ったあとの水田ばかりが目立つ、死者の町のような土地だった。村に不釣り合いな大温泉施設を見た瞬間、この施設は赤字だろうなあ、と思った。案の上、取材を進めると、開業初年度から赤字を垂れ流しているということだった。

 Xは施設運営の幹部に納まって、月給70万円余りを取った。それ以外に施設の内装工事や備品購入に関与した。すなわち、仲介して金を抜いていたと想像される。

 Xは持ち前の人当たりの良さで、村の人々の間に入り込んでいった。私が取材した人たちは、Xの前半生の話を聞くと「本当にそんな人なんですか!? 折り目正しくて、アイデアもある、優秀な人だと思っていましたが……」と当惑した。ただ一人だけ、社民党の年輩の村会議員だけは、Xをひと目見て「あの男は、絶対に駄目だ」と断言したそうだ。その方は、長年保護司(犯罪や非行を犯し、保護観察処分になった者の更生を助けるボランティア的仕事)をやっているそうである。たぶん犯罪者に特有の匂いを、Xから嗅ぎ取ったのだろう。

詐欺師の上をいくゴロだった“地元の名士”

 Xにとって計算外だったのは、「地方の闇」の深さであった。

コメント63件コメント/レビュー

私の勤める会社は、日本の有名企業と、米国資本が親会社です。投資に対する責任と権限を親会社が持っており、結果として、この記事の田舎の地方自治体と同じような体質になっています、(程度や規模こそ違いますが。)親会社からの大きな投資は設備がらみになることが多いため、設備がらみ人脈の権限が強く腐敗と見える行動にも自覚がないようです。出てくる言い訳もまったくそっくり。私の好きな漫画作家は地方は中央に金と人材を吸い取られているといっていますが、金も人材も逃げ出しているのが実情ではないでしょうか・・・。(2007/04/01)

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「地方の闇~詐偽師Xと夕張市~」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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私の勤める会社は、日本の有名企業と、米国資本が親会社です。投資に対する責任と権限を親会社が持っており、結果として、この記事の田舎の地方自治体と同じような体質になっています、(程度や規模こそ違いますが。)親会社からの大きな投資は設備がらみになることが多いため、設備がらみ人脈の権限が強く腐敗と見える行動にも自覚がないようです。出てくる言い訳もまったくそっくり。私の好きな漫画作家は地方は中央に金と人材を吸い取られているといっていますが、金も人材も逃げ出しているのが実情ではないでしょうか・・・。(2007/04/01)

この話、今や地方だけでなく中央も同じ構図でしょう。己の儲けしか考えない“経営者”、責任回避をしながら“美味しい汁”を求める政治屋と官僚、“何を言ってもダメ”と諦めている庶民。もうじき“日本も破綻するかもしれない”と言われても何も変わらない。本当に破綻するまで何も変わらないのかもしれない。みんなで逃散ならぬ海外脱出でもしようか?。(2007/03/06)

「自浄能力」のない地方は助ける必要はない、と。ならばわれわれ地方の人間は、東京に出て流民になろうではないか。「ええじゃないか」とでも叫びながら。そして東京の治安をさらに乱してやろう。現代の幕府は帰農令でも出すか?(2007/03/02)

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