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追悼 城山三郎

巨星墜つ、昭和の苦悩と人の真実に迫った気骨の作家

2007年3月23日(金)

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故・城山三郎氏 (写真:陶山勉)

 城山三郎さんが亡くなられた。まさに、巨星墜つ、の感がある。

 私の机のそばの本棚には、城山さんの作品がずらりと並んでいる。私は学生時代からの愛読者で、好きな作品は『官僚たちの夏』『総会屋錦城』『落日燃ゆ』『乗取り』など、枚挙にいとまがない。海外ビジネスへの憧れを育んでくれたのは『生命なき街』であり、会社員の頃に悩んだりした時は『打たれ強く生きる』をひもといた。

 私にとって、城山作品は、純粋な読書の対象であると同時に、作家としてのお手本でもある。よく「小説家になるための文章修行はどうされましたか?」と訊かれるが、一番効果があったのは、自分がいいと思う作家の文章を「分解」してみることだった。

 具体的には、文章がどのような流れになっており、どのような要素がどの程度投入されていて、それら要素がどのように組み合わされているか、といったレベルにまで文章を分解することである。そうすることで、なぜ自分がその文章が好きなのかを理解でき、それを手本として、自分の作品の設計図を描き直すことができる。

 私が「分解」した作家の1人が、城山さんである。小説家としてデビューした頃にもやったし、1年半ほど前に短編小説が上手く書けずに、模索していた時にもやった。

 その時のメモは、たとえばこんな具合である。

[1]タイトル:『輸出』(1957年7月、82枚)

[2]ストーリー:(1)カラカスで小久保が行方不明→沖が捜しに行く→本社とバイヤーの板挟みで統合失調症になった小久保→会社が小久保を切り捨てる、(2)ストーリーは複雑ではなく、どんでん返しもない

[3]ディテール(テクニカリティ):ミシン輸出に関する調整最低価格、その抜け道のスペヤーの無為替輸出によるリベート

[4]人間像:(1)笹上、沖、小久保~輸出政策の犠牲者、部長~上記の3人の対極にある非情な会社の論理の象徴、ミチ~戦争花嫁の悲哀と打算、(2)それぞれが時代を象徴している

[5]暴露性:輸出政策の陰の人間群像

 ストーリーは複雑ではないが、ディテール、人間群像、暴露性という3つの要素が、わずか82枚の中にふんだんに盛り込まれており、それが読者を魅きつける秘密になっていることが分かる。

戦争体験と生来の気質が織り成した陰影ある文体

 同時に、凡人には逆立ちしても真似できない要素があることも分かる。それは筆が持つ独特の雰囲気だ。これは、作家云々以前のものである。城山さんの場合は、戦争体験が人生に強烈な影を落としており、それが生来の気質と相まって、独特の陰影のある文体を作り上げたのではないだろうか。

 以前、角川書店のベテラン編集者が「城山さんは本質的には詩人。あの陰影のある文章は誰も真似できない」と言っていたが、同感である。その人が書けば平凡な物でも独特の輝きを放つ、ミダス王の指を持った一群の作家がいるが、城山さんはそうした「文豪」の1人であったと思う。

 もちろん、筆力だけではない。城山さんの作品は、『輸出』の例でも分かるが、精力的な取材と周到な構成によって書かれている。

 ご長男である杉浦有一氏と私は、奇しくも同じ銀行の同期入行者同士である。彼は早くからディーラーになり、私は国内支店3カ店を経て国際融資畑に進んだので、仕事ではほとんど接点がなかったが、1年半ほど前に、日本橋で一緒に飲んだことがある。杉浦氏いわく「親父は実によく取材していた」。

「権力」「権威」「形だけのもの」に対する強烈な反発心

 また、権力や権威、形だけのものに対する反発心は相当なもので、7年前に城山さんの奥様が亡くなられ、仕事の関係者などから盛大な花が送られてきたが、城山さんはそれをみんな脇によけてしまったそうである。杉浦氏は「通夜の晩に70過ぎたじいさんがムキになって花を移動している姿には、俺も唖然とした」と苦笑いしていた。

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「追悼 城山三郎」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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