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重慶立てこもり騒動の真相

日本のメディアよ、中国を報じるなら本質を突け

2007年4月11日(水)

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 3月下旬から繰り広げられた中国重慶市における立ち退き拒否住民による“立てこもり騒動”は全世界に報道され注目を集めたが、4月2日に住民と市街地再開発デベロッパーとの間で和解が成立したことで決着を見た。

 衆目を集めた最大の理由は、住民が立てこもる2階建てレンガ造りの建物が周囲を堀のように10メートルも掘られ、あたかも山城のごとくそびえ、孤立する光景が、なんとも異様であったことだ。そして、国家が強権を発動して弱者である人民から奪い取るというストーリーにメディアは飛びついた。

 折しも、3月に北京で開催された全国人民代表大会(全人代)で個人財産の保護を明記した「物権法」が採択されたばかりであったことから、立てこもり住民の個人財産である建物が最終的にどうなるのかが興味の焦点となった。

 日本のメディアは、「中国重慶市の工事現場で、2年以上にわたり立ち退き拒否を続けた結果、孤島のような状態となった1棟の住宅の夫婦が、地元裁判所の調停で、開発業者が用意する別の住居に移ることで和解した」と現場の写真や映像を示して面白おかしい話題として報じていた。

欧米よりも底が浅かった日本メディアの中国報道

 しかし、実態はそれほど単純な話ではなかった。欧米メディアが単なる興味本位の話題としてばかりでなく、その背後に潜むものをうかがわせる報道をしていたのと比べると、日本メディアの報道内容は図らずも底の浅い限界を示すものとなった。

 何が問題なのか──。問題点を指摘する前に、この騒動を知らない人もいると思うので、その概要を振り返ってみよう。

 現場となった「重慶市九龍坡区楊家坪鶴興路17号」は、かつては飲食店が軒を並べる繁華街であり、立てこもり住人である楊武と呉苹の夫婦は、許可を受けて1993年に建物を建設して居酒屋を営んでいた。そこに持ち上がったのが市街地再開発事業として53階建ての商業・住宅ビルを建設する計画であった。2004年からデベロッパーによる鶴興路一帯の住民281戸に対する移転交渉が始まり、地区政府の支援を受けたデベロッパーの圧力に屈した住民は安い移転補償金で泣く泣く移転を余儀なくされた。

 2006年5月に工事を開始したデベロッパーは、移転済み住宅を取り壊したうえで、地面を10メートル程掘削する作業を進め、2006年9月には最後まで移転交渉がまとまらなかった楊武・呉苹の建物1戸を残すだけとなった。この間に水も電気も止められ、居酒屋も営業が不能となった。その後も移転交渉は幾度も行われたが、決着を見ることなく、最終的には九龍坡区裁判所の裁定に委ねられることとなった。

 裁判所は、全人代が「物権法」を採択して終幕となった2007年3月16日から3日後の19日、楊武と呉苹に対して3月22日を期限として移転するよう判決を下した。ところが、楊武が建物に立てこもったニュースが広く国内外で報道されたことから、移転期限は2回繰り延べとなった。中国政府はこの騒動関連のあらゆる報道の禁止を命じ、これを受けて裁判所は3月31日に改めて移転の最終期限を4月10日とする命令を発し、それまでに和解が成立することを望むと締めくくった。

 事態が急展開したのは4月2日であった。交渉を一手に引き受けていた呉苹とデベロッパーとの間で、既存の建物と同面積・同用途の店舗を同一地区で提供することと営業損失として90万元(約1400万円)を支払うことで和解が成立し、その夜の内に建物は完全に取り壊されたのである。

表層とは大違いの真実があった

 さて、日本のメディア報道に不足している点は何か、列挙すると次の通りである。

[1] 立てこもった夫婦は裕福な成功者だった

 中国ではこの種の立ち退き拒否があると、地方政府を後ろ盾とする不動産業者は時に公安警察の協力まで受けて対象建物から住民を強制排除して取り壊すのが今までの通例である。物権法の成立より3年も前に移転交渉が始まったのに、どうして楊武・呉苹夫婦の建物だけが強制取り壊しを受けずに残ったのか。

 楊武はかつて中国の格闘技「散打」の75キロ級で優勝経験のある武術家であったが、引退後に呉苹と結婚してから居酒屋事業に成功。重慶、北京、成都など全国十数都市で居酒屋を経営し、その後始めた貿易会社も全国展開しているという。端的に言えば、彼らは金持ちであって、中国で立ち退き騒動があったというと日本人がすぐに連想する“行く当てのない貧乏人”ではなかったのである。

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「重慶立てこもり騒動の真相」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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