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ソニー、退路なきソフト路線

“さらば久多良木”、ストリンガー改革第二幕へ

  • 山崎 良兵, 大竹 剛

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2007年5月7日(月)

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 4月26日夕方、東京・青山にあるソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の本社で開かれた取締役会は突然、重苦しい空気に包まれた。

 「この辺で一区切りです。PS3には、今までとは違うやり方で関わっていきたい」――。

 家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)」の生みの親で、SCEの会長兼CEO(最高経営責任者)である久多良木健が、自らの退任を表明。同時に、短いお別れのスピーチをした。久多良木の表情は終始、険しいものだったという。

 ソニー会長兼CEOのハワード・ストリンガーら、事前に久多良木から退任の意向を聞いていた一部のSCE取締役は、静かにそのスピーチを聞いていた。SCEの創業時から久多良木を支えてきた元ソニー・ミュージックエンタテインメント社長で社外取締役の丸山茂雄がねぎらいの思いを込めて大きな拍手をし始めると、やがて会議室は拍手に溢れた。退任は満場一致で可決され、久多良木は6月19日から名誉会長となる。

取り残された“夢の箱”

 久多良木は昨年12月、ストリンガーの意向でSCE社長から会長に退いていた。CEOの肩書は兼務していたが、事実上、後任社長の平井一夫に権限を譲るはずだった。だが、それから5カ月、久多良木は平井ら若手の決定を何度か土壇場で覆したことがあったようだ。PSを育てたという自らのプライドが、口を挟まずにはいられなかったのだろう。5カ月間という完全退任までの「執行猶予」は、久多良木が心の整理をつけるための、ストリンガーの配慮だったのかもしれない。

 久多良木は、最先端の半導体を自前で開発・製造し、ソニーが技術力で米インテルを凌駕する日が来るのを夢見ていた。格好の舞台が家庭用ゲーム機だった。だが、リアルな3次元画像は当たり前になり、最新技術を詰め込んだPS3でさえも消費者に驚きを与える力は色あせていた。

 半導体の技術力で見れば、PS3の実力は確かに驚異的だ。久多良木がSCE会長の退任を表明した4月26日、米IBMがPS3用の半導体をメーンフレームに搭載し大規模な企業向けシステムなどの開発を始めると発表。米スタンフォード大学も、インターネットで世界中のPS3をつなぎ、その膨大な演算能力を使って人間のたんぱく質を解析するプロジェクトを始めている。こうした事実は、久多良木の夢が、ソニーの原点である消費者をワクワクさせる夢と懸け離れた領域に飛躍していたことを意味する。

 久多良木もそれを理解したからこそ、自ら退任を申し出たのかもしれない。久多良木に近いある人物は、こう証言をする。

 「久多良木さんは以前なら自分の夢を1分もあればスパッと言えたのに、今は2時間あってもはっきりしない」

 何よりもストリンガーが目指すソニーグループ全体の方向性と、久多良木の強烈な個性は、相容れないものだった。久多良木は「エレクトロニクス事業の低迷の原因はソニー本社にある」と、ソニー前会長の出井伸之らを公然と批判してきた。2005年6月にストリンガー体制になって以降も、久多良木による「体制批判」は収まらなかったようだ。

 SCEのある役員は「久多良木さんの退任を決めたなら、今度はソニー本体が(久多良木さん抜きで)どう成長を加速させるのか、将来のビジョンを明確に示すのが筋だ」と言う。

 ストリンガーは従来、久多良木の才能を高く評価する良き理解者だった。そのストリンガーが“久多良木外し”を断行したのは「ソニーユナイテッド(一致団結したソニー)」の取り組みを加速させるためだ。ソニーグループが団結するには、ゲーム部門がカリスマの下に独立王国のように振る舞うわけにはいかない。

 ソニーグループの協力体制を新ステージに引き上げよう――。

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