北朝鮮の債券が、国際金融市場で密かな人気商品になっている。しかも米国や日本の投資家が買っている。現在の取引価格は額面1ドルに対して26セント。年初の価格が21〜22セントだったので、この数カ月で2割ほど上昇したことになる。日本のニュースは拉致問題や6カ国協議一色だが、投資家たちは全く別の論理で行動しているのだ。
金日成前主席の死去後の服喪期間に証券化
この債券は1997年3月にフランスのBNP(Banque National de Paris、現BNPパリバ)がアレンジしたものだ。発行額は7億7700万ドイツマルク(約650億円)。元々いろいろな銀行が保有していた北朝鮮向け融資債権を証券化したものだ。ドイツマルクとスイスフランの2つの通貨建てで、金利のないいわゆるゼロクーポン債である。
発行された97年3月は、金日成前主席が1994年7月に死去した後の3年間の服喪期間中で、金正日総書記への権力の継承もなされていなかった。こうした極めて不安定な時期に、いかにしてこのような証券化商品を組成したのだろうか?
英国ロンドンの金融街シティの北東寄りにあるリバプール・ストリート駅周辺は、90年前後に開発された新しい一角である。UBSなど世界に名だたる金融機関がガラスと鉄骨を組み合わせた近代的なビルに入居している。
BNPで北朝鮮向け証券化商品をアレンジしたピーター・バートレット氏が99年に設立したエマージングデット(途上国債権)専門のブティック型金融機関エキゾティックス社(Exotix Limited)も、ここにオフィスを構えている。ディーリングルームのようなオフィスに入ると、20人ほどの社員たちが数字やグラフを色とりどりに映し出しているスクリーンに目を凝らしながら、電話をしたり、打ち合わせをしたりしていた。
バートレット氏は、コンチネンタル銀行、モルガン・グレンフェル(現ドイツ銀行)、インドスエズ銀行(現カリヨン銀行)、BNPなどで一貫して途上国債権ビジネスを手がけてきた英国人だ。90年代には多くの邦銀から途上国向け債権を買い付け、ここ数年では、日本企業が保有していた大型のイラク向け債権の処理(欧米の投資家への売却仲介)を手がけるなど、日本とも縁の深い人物である。
米英のヘッジファンドを中心に売買、日本の投資家も
バートレット氏によると、同債券は北朝鮮に対して新たな資金を供給したものではなく、北朝鮮向け債権をバランスシートから外したい銀行と、高利回りが期待できる商品を求めていた投資家のニーズを結び付けた商品である。また、北朝鮮の債権を外国投資家が握っていることで、同国に対する圧力を維持する効果もあるという。
北朝鮮はかつて日本を含む世界中の銀行から融資を受けていたが、旧共産圏諸国の中では最初に債務不履行を引き起こし、現在、債権銀行が世界各地で債務返済を求めて訴訟中である。こうした既存の融資債権をいったんロイヤル・バンク・オブ・カナダが買い付け、それを元に証券を発行した。
ロイヤル・バンク・オブ・カナダによる買い付けには、債務者(北朝鮮)の同意を必要とせず、買い付け(債権譲渡)後も債務者に対しては元の融資銀行が法的な債権者として返済金の受領や回収交渉に当たり、その経済的得失を債務を譲り受けた者が受け入れる「サブ・パーティシペーション」形式である。
この商品の優れた点は、国際的な証券決済機関であるユーロクリアとクリアストリームで決済できる証券にしたことだ。これによって売買に不向きな融資債権が、容易に売買できる金融商品に変わった。同債券は現在、米国や英国のヘッジファンドを中心に保有されており、日本の投資家も少量だが買ったそうである。
米国の投資家が北朝鮮向け債権を買えるようになったのは2000年からだが、いまだに「買ってはいけない」と誤解している投資家が多いという。ちなみに、現在、米国の投資家が売買を禁じられているのは、イラン、キューバ、スーダン向けなどである。
“ING東京支店伝説”、再び! 南北統一によるパーを狙う
ゼロクーポン債なので、投資家は値上がり益を期待して買っているわけだが、6カ国協議が停滞している現状では、短期的な値上がりはあまり期待できそうにない。しかし、「3〜10年といったスパンで見ると面白い投資ではないだろうか」とバートレット氏は語る。同債券は2010年3月が満期で、その時点で別の債券が発行されなければ、投資家は元の融資債権を譲り受けることになる。投資家の究極の期待は、南北朝鮮が統一され、債務が全額(ないしはそれに近い水準)で返済されることだ。
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