「ニュースを斬る」

円安報道の虚と実

日本の個人投資家がようやくグローバル投資に目覚めた

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2007年5月30日(水)

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 円安が進んでいる。現在の円安・ドル高トレンドは2004年暮れの1ドル=100円台前半の水準を底に始まっている。対米ドルのみならず、対ユーロ、対アジア通貨でも円安基調だ。

 近年の円安の原因は、「円と他通貨との金利格差拡大にある」と一般に報道されている。「成長期待や投資機会の格差が資金の流れを通じ、円を押し下げている」などとも語られている。もっともらしい説明だが、基本的な事実に照らせば、これほどでたらめな説明はない。

金利格差、成長率、株価上昇率に異変なし

 例えば、代表的な金利として期間10年物の米国国債と日本国債の利回りを比べると、現在の金利水準は米国4.8%、日本1.7%で、金利格差3.1%である。だが、1977年から30年間の同金利格差の平均は3.17%である。つまり現在の日米国債利回り格差は過去30年間の趨勢的な金利差とほぼ同じ水準にあり、金利格差が趨勢的に拡大している事実はない。

 日米の短期金利格差、例えば日本のコールレートと米国のフェデラルファンド・レートの格差は現在4.75%とやや大きいが、名目短期金利差とドル円相場の変動の間には有意味な相関関係はほとんど見られないことがエコノミストの間では知られている。

 また、円は対ドルよりも対ユーロで円安が顕著になっている。ところが、2001〜2002年の景気後退・低迷期を脱した2003年から2006年までを見ると、実質GDP(国内総生産)成長率の平均はユーロ圏1.7%、日本2.1%であり、成長率は日本の方が高いのである。

 同じ期間の米国の平均成長率は3.2%と相対的に高いが、これは日本の人口成長率が現在ほぼフラットであるのに対して米国では人口が0.9%で伸びている結果に過ぎない。国民1人当たりの同じ期間の実質GDP成長率は米国2.3%、日本2.1%であり、大差がない。

 株価を見ても、2003年以降の企業業績の回復と株価上昇は、日本、欧州、米国と世界同時的に進行しており、年によってばらつきはあるものの、日本の株価上昇が劣後している事実はない。例えば、2003年1月から現在までの株価の変化を比べると、米国の代表的な株価指数S&P500は約1.7倍、日本のTOPIXは約2.0倍に上昇している。

 要するに、金利格差の変化、実質成長率、株価上昇率などどれを見ても、経済的な客観情勢に特段の円安を引き起こす変化はないのに、円安が進行しているのだ。円安を起こしている変化は投資主体の側に生じていると考えるのが論理的である。

円安トレンドの主役は日本の個人投資家

 外為市場で円安の需給変化を起こしている取引としては、「円売りキャリートレード」と日本の個人投資家層による「外貨建て投資信託」の急増が指摘されている。

 トレーダーや投機家の円売りキャリートレードは為替先物や通貨フューチャーなど売買コストが僅少で操作機動性の高いオフバランス取引で行われているのが一般的である。米国シカゴの先物取引所で公表されているそうした実需の裏づけのない円売りの為替持ち高の推移を見ると、円相場の振れに合わせて拡大と縮小を繰り返している。この種の取引は短期的な利鞘獲得を目的に行われているので短期的な相場変動の原因としては下落にも上昇にも影響度が高い。しかし、ある程度長い期間を取ると売買はほぼチャラ(中立)となり、趨勢的な円相場水準への影響度は高くない。

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著者プロフィール

竹中 正治(たけなか・まさはる)

竹中 正治

龍谷大学 経済学部教授

1979年東京大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の為替資金部次長、調査部次長などを経て、2003年3月よりワシントン駐在員事務所所長。ワシントンから米国の政治・経済の分析リポート「ワシントン情報」を発信する傍ら、National Economists Club(WDC)役員を務めるなどエコノミストとして活動。2007年1月から2009年3月まで国際通貨研究所チーフエコノミスト、2009年4月より現職。最近の著書に、『米国経済の真実』(共著編、東洋経済新報社、2002年)、『素人だから勝てる 外貨投資の秘訣』(扶桑社、2006年11月)、『ラーメン屋vs.マクドナルド』(新潮新書、2008年)、『今こそ知りたい資産運用のセオリー まず投資の魔物を退治しよう』(光文社、2008年)、「なぜ人は市場に踊らされるのか?」(日本経済新聞出版社、2010年)など。



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