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地域間格差拡大論のウソ

格差縮小を示すマクロ指標はなぜ無視されるのか?

  • 竹中 正治

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2007年8月7日(火)

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 7月下旬、家族と北海道の留寿都(ルスツ)で夏の休暇を過ごした。この地域は蝦夷富士とも呼ばれる羊蹄山がそびえ、日本屈指の清流、尻別川が流れる。南には来年サミットの会場となる洞爺湖があり、温泉も湧いている。

 実に豊かな自然環境がそのまま観光資源となる美しい地域である。私たち家族は尻別川でラフティングとカヌー漕ぎによる川下りを2日間楽しんだ。ジャングルのような森に囲まれた尻別川を自ら手漕ぎカヌーやラフティングで下る醍醐味はなかなかのものだ。

確かに地方の巨大観光施設は稼働率は低いが…

 ところが、地元の巨大リゾートホテル内に足を踏み入れると、東京の後楽園遊園地を凌ぐようなジェットコースター類を林立させた大遊園地があり、既に夏休みシーズンなのに遊園地の稼働率は10%程度だった。50人乗りのジェットコースターに5人乗って運行させている状態である。

 洞爺湖には200~300人も乗れる大型遊覧船が周航しているが、乗客は20~30人ほどに過ぎない。湖畔の大きな温泉ホテルには、人工波の出る巨大室内プールがあるが、やはり稼働率は10%程度にしか見えない。

 この北海道の姿は、大都市と地方、地域間経済格差の拡大を象徴しているのだろうか。7月の参議院選挙での自民党の大敗、その理由は言うまでもなく、年金・社会保険庁問題と相次ぐ閣僚の会計疑惑や失言であり、こうした問題に対する安倍首相のリーダーシップに対する失望だった。

 同時に、「小泉内閣で始まった構造改革政策がもたらした格差の拡大、とりわけ地域間格差の拡大に対する地方有権者の批判の受け皿に民主党がなった」という説明が出回っている。対する自民党も「ふるさと納税制度案」などを出して、地域間格差の是正アピールに躍起だった。

イメージで語られる地域間経済格差の拡大論

 ほとんどの日本人は「地域間の経済格差が近年拡大している」というイメージを持っている。意見が分かれるのは、「経済成長のためにはある程度の格差拡大はやむを得ない」と考えるか、「格差拡大は避けるべきだ」と考えるかの点だ。しかし、そもそも地域間の経済格差拡大は事実なのだろうか。実はマクロの統計データが示す結果は、地域間格差の拡大を否定している。

 内閣府が作成・公表している国民経済計算(SNA)統計に「県民経済計算」があり、47都道府県別の「県内総生産」や「県民所得」を知ることができる。直近で発表されているのは2004年度までである。

 この統計で、1人当たり県民所得(名目平均値)の変化を見ると、東京都の2004年の1人当たり平均所得は1996年比で6.5%増、90年比では10.1%増となっている。一方、2004年の北海道(平均1人当たり所得で下から17番目)の1人当たり平均所得は1996年比9.3%減、90年比でも5.2%増にとどまる。県別デフレータで調整した実質値の変化を見ても趨勢は変わらない。

 地域間格差拡大の批判論者は、「これこそが地域間拡大の証拠だ」と思うだろう。しかし、47都道府県の中から東京都と北海道だけ比較して所得格差が拡大しても47都道府県全体で格差が拡大していることにはならない。他の地域間で格差が縮小していることもあるからだ。こういう場合、「ジニ係数」という概念で全体の格差度合いを計測するのが定石である。

 例えば100人の所得格差の度合いを計測するためには、所得の少ない順に並べ、最下位の1人の所得、下から2人の所得合計、下から3人の所得合計、そして最後に100人の所得合計という具合に、グラフ上に左から右へ並べる(グラフの垂直軸が所得である)。

 100人の所得合計が1億円なら、全ての成員の所得が100万円で均等の場合、グラフは右上がりの直線となる。これが完全平等状態であり、この直線を「均等分配線」と呼ぶ。一方、1人の人間が1億円の所得を独占し、ほかの99人が所得ゼロなら、究極の不平等状態であり、グラフは逆L字型となる。

 通常は両者の中間の状態であり、グラフのような曲線(ローレンツ曲線と呼ぶ)が描かれる。この曲線と均等分配線の直線で囲まれた三日月型の面積の直角三角形全体の面積に対する比率がジニ係数であり、ジニ係数がゼロに近いほど格差は小さい(=平等に近い)ことを意味する。反対に、三日月型の面積が三角形の面積と同じ(つまりジニ係数が1)に近いほど格差の度合いは大きいことになる。

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