9月12日午後、安倍晋三首相が辞意を表明した。
衆議院・参議院の本会議で所信表明演説のわずか2日後、しかも衆参両院で各党代表質問が行われる直前という異例のタイミングである。テレビ中継でおなじみの首相官邸の記者会見室はテニスコートほどの広さだが、マイクを通さない安倍首相の声は、会見室の後方ではほとんど聞き取れないほど小さく、か細いものだった。
緊急記者会見が開かれた会見室の壇上には、与謝野馨官房長官らが神妙な面持ちで並ぶ。会見を始める時、安倍首相は目にうっすらと涙を浮かべていた。しかし、記者の質問には、ひと言ずつを間を置きながら話すいつもの語り口だった。
政治的な困難を最小限にする
「総理の職を辞するのは、国民の目からは逃げていると見えるのではないか」──。
記者からそう問われると、首相は「総理の職責は大変重たいものがあると考えています。そして私も所信において思うところを述べたところであります。しかし、述べたことを実行していくという責任が私にはあるわけではございますが、なかなか困難な状況です。この中において、それを果たしていくことができないのであれば、それは政治的な困難を最小限にする、という観点からなるべく早く判断すべきだという決断に至りました」と答えた。
しかし、「総理の職責」という言葉には力がなく、言葉を重ねるうちに声はどんどん小さくなる。最後には、何を言っているのか聞き取れなくなってしまった。一国の代表者の辞意表明会見にしては、あまりにもあっけない幕切れだ。
代表質問が行われるはずだった衆議院本会議は流会を決めた。午後6時15分から予定されていた全国知事会など地方6団体との懇談は、辞任報道が出た後に中止の連絡が伝えられたという。
テロ対策特別措置法の延長問題だけでなく、年金や「政治とカネ」など、政治課題は山積している。「政治的な困難を最小限にとどめる」という言葉とは裏腹に、突然の首相辞任による国政の停滞は避けることができないだろう。
(日経ビジネス オンライン記者=大豆生田 崇志)
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