「ニュースを斬る」

農家切り捨て論のウソ

小手先の保護政策が日本の農業を“自壊”に導く

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2007年9月21日(金)

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農業政策は次期政権の重要課題の1つだ。格差論議が高まる中、農家戸別所得補償を打ち出して参議院選挙で大勝した民主党に対抗して、このところ自民党内でも公共事業拡大を求める声が強まっている。しかし、農業問題に詳しい神門善久・明治学院大学教授は「農家保護策では根本的な問題は解決しない」と指摘する。(聞き手は、日経ビジネス オンライン記者=谷川 博)

明治学院大学経済学部の神門善久教授

NBO 農業政策は次期政権の重要課題です。参院選ではマスコミや野党が格差問題に絡めて「零細農家、切り捨て」と政府を批判し、民主党は農家戸別所得補償を打ち出しました。選挙で民主党が大勝したことで、自民党内でも同様の農家保護策を求める機運が高まっています。一連の動きをどう見ますか。

神門 まず、「零細農家、切り捨て」などという論議は、農業問題に長年取り組んできた私のような立場からすれば、ちゃんちゃらおかしい話です。第一、あれは大衆迎合的なマスコミが作り上げた“お涙頂戴”のストーリーでしょう。そんなマスコミのストーリーに政党が便乗しているだけです。零細農家が切り捨てられるなんてことはあり得ません。

 マスコミは「零細農家イコール弱者」のような形で描きたがりますが、現実には彼らほど恵まれた人たちはいない。農地の固定資産税が軽減されているうえに、相続税もほとんどかかりません。たとえ“耕作放棄”をしていてもですよ。
 そのうえ、農地を売却すれば大金を手にできる。「田んぼ1枚売って何千万円も儲けた」なんていう話はザラにある。しかも、そうした農地の多くは敗戦後の米国主導の“農地解放”を通じて国からもらったようなものです。濡れ手で粟なんですよ。

 最近、「仕事がなくて生活に行き詰まり、一家心中した」という悲惨なニュースを耳にしますが、あれは都市部の話です。「農業に行き詰まり、生活苦のために零細農家が一家心中した」などという話は聞いたことがありません。零細農家には切迫感がないのです。

農家は戸別所得補償に期待していない

NBO しかし、参院選では小沢(一郎)さんが打ち出した戸別所得補償政策が零細農家の圧倒的支持を集め、その結果、民主党が地方で圧勝したと言われています。やはり零細農家の生活には苦しいところもあるのではないですか。

神門 だから、そういうマスコミの見方が間違っているんです。

 いいですか、日本の零細農家の大半が兼業農家なんですよ。兼業農家の全所得に占める農業所得がどのぐらいか知っていますか。たった15%程度ですよ。兼業農家の家計収入の大半は、世帯主らが役所や企業などで働いて得る、いわゆる“サラリーマン収入”なんです。だから、本当は彼らのことを兼業農家ではなく、“農地持ちサラリーマン”と呼んだ方がよいのかもしれません。

 繰り返しますが、彼らは農家と称しながら、実は農業所得に依存していない。ハナから農業所得なんか家計の当てにしていませんよ。なのに、そこに国が所得補償するのはおかしい。それに、民主党のマニフェストを読んでも、小規模農家が受け取る補助金がどれだけ増えるのかは、はっきりとしない。

農家が本当に求めているのは公共事業だ

NBO では、なぜ農家は参院選で民主党を支持したのでしょうか。

神門 農家は自民党を試しているのだと思います。あるいは、自民党にプレッシャーをかけていると言ってもよいかもしれません。

 農家が望んでいるのは、小沢さんの所得補償政策のようなチッポケなお金ではありません。彼らが本当に求めているのは公共事業なんです。公共事業で道路などを作ってもらえれば、自分たちの田んぼや畑が高く売れるでしょう。

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著者プロフィール

谷川 博(たにかわ・ひろし)

日経アーキテクチュア、日経ビジネスを経て2007年3月から日経ビジネスオンライン記者



このコラムについて

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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

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