「ニュースを斬る」

新版「花見酒の経済論」

高騰する原油価格に揺れる世界経済を読み解く

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2008年1月15日(火)

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 原油価格の高騰が続き、とうとう1バレル=100ドル(WTI:ウエスト・テキサス・インターミディエート)越えをうかがう展開となった。2003年の30ドル前後から4年半で3倍強に跳ね上がったことになる(グラフ参照)。

 原油価格の高騰を「2008年の世界経済のリスク要因である」と指摘する意見は多い。しかし、そもそもなぜ原油価格の高騰にもかかわらず、2007年まで経済はそれが原因で失速しなかったのだろうか──。2度の石油ショックに見舞われた1970年代には、原油価格の高騰で石油輸入国の経済成長は失速し、長期的な経済成長見通しも悲観論が蔓延した。その時と今では何が違うのだろうか。まずこの問題を考えよう。

バブルへGo!急騰する原油、ゴールド、中国株

グラフ バブルへGo!急騰する原油、ゴールド、中国株

原油価格の高騰が成長のブレーキにならなかった理由

 この問いに対してエコノミストは通常次のような説明を用意している。

 第1はドル相場の下落である。原油はドル建てであるから、日本について言うとおおむね1ドル=200〜360円だった1970年代と、1ドル=110円前後の現在では円相場が上昇した分だけコストは抑制されている。

 第2は先進国経済のエネルギー効率の向上であり、日本ではGDP(国内総生産)1単位を生み出すのに必要な原油量は「1970年度を100とした場合、2006年度は41」に低下している(日本経済新聞2008年1月6日朝刊「原油100ドルの時代」より)。

 こうした説明は間違ってはいないのだが、事実の一部しか説明できていない。例えば、ドル相場の下落による恩恵を米国は当然享受できないが、原油価格の高騰は少なくとも2007年の第3四半期までは米国の経済成長の顕著なブレーキにはなっていなかった。

 また、現在高成長を続けている中国のエネルギー効率は1970年代の日本よりもずっと悪いし、70年代に比べると人民元相場は対ドルで下落している。しかし近年の原油価格の高騰が原油輸入国でもある中国の成長のブレーキには今までのところなっていない。

 原油価格が高騰しても昨年まで世界経済が失速しなかったことには、もっと原理的な理由がある。この点を、落語の「花見酒」をもじった「新版花見酒の経済論」でご説明しよう。

「新版花見酒の経済論」で読み解く原油高騰の効果

 熊さんと与太郎がそれぞれ別々に酒樽を担いで花見客に酒を売りに来たと思っていただきたい。2人とも早く来たのでまだ花見客はいない。酒の香りに誘われて2人とも酒が飲みたくてたまらない。しかし自分の酒を飲んだら商売にならない。熊さんがポケットを探ると100円玉が出てきた。

 そこで熊さんは100円で与太郎の酒を1杯買って飲む。与太郎も飲みたくてしかたがない。そこで与太郎は受け取った代金の100円で熊さんの酒を買って飲む。

 飲みだしたら止まらないのが酒飲みだ。熊さんは売上代金の100円でまた与太郎の酒を買って飲む。こうして100円が1回往復するごとに(これを“1期間”としよう)2杯の酒が供給され、消費される。

 何杯か飲んだ時、熊さんが与太郎に言う。「俺んとこの酒は純米大吟醸だぞ。今後は1杯200円でなければ売らねえ」。与太郎は100円玉を握ったまま困ってしまう。そこに花見客の銀行員がやって来て、与太郎に「100円を貸しましょうか」と申し出る。与太郎は100円を借りて200円で再び熊さんから1杯酒を買って飲む。

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著者プロフィール

竹中 正治(たけなか・まさはる)

竹中 正治

龍谷大学 経済学部教授

1979年東京大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の為替資金部次長、調査部次長などを経て、2003年3月よりワシントン駐在員事務所所長。ワシントンから米国の政治・経済の分析リポート「ワシントン情報」を発信する傍ら、National Economists Club(WDC)役員を務めるなどエコノミストとして活動。2007年1月から2009年3月まで国際通貨研究所チーフエコノミスト、2009年4月より現職。最近の著書に、『米国経済の真実』(共著編、東洋経済新報社、2002年)、『素人だから勝てる 外貨投資の秘訣』(扶桑社、2006年11月)、『ラーメン屋vs.マクドナルド』(新潮新書、2008年)、『今こそ知りたい資産運用のセオリー まず投資の魔物を退治しよう』(光文社、2008年)、「なぜ人は市場に踊らされるのか?」(日本経済新聞出版社、2010年)など。



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