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安易な不払いはこうして戒められた

  • 大豆生田 崇志

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2008年3月12日(水)

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 2006年6月、最高裁判所が下した判決は、損害保険会社に大きな衝撃を与えた。自動車保険の車両保険契約(以下、車両保険)の保険金支払いを巡る保険契約者との訴訟で、顧客である契約者がわざと事故を起こしたと立証する責任は、損保会社にあると判断したからだ。これまで保険業界は、契約者が損害保険金を請求する場合、契約者側が故意に事故を起こしていないとする立証責任があるとしてきた。この最高裁判決は、こうした損保側の考え方を180度転換させたことになる。

 専門の調査機能を持つ保険会社と違って、顧客である契約者、特に個人に調査能力は無きに等しい。契約者が故意に事故を起こしていないことを立証するのは、もともと極めて困難だ。そのため2006年6月の最高裁判決は、消費者保護を重視した判決と受け止められた。

 この最高裁判決で争点になったのは、自動車保険の約款にある「偶然な事故」という言葉の定義だ。「偶然な事故」という言葉は、もともと傷害保険の契約約款にあったもので解釈されてきた。

 傷害保険で保険金の支払い対象になるのは、契約者にとって思いがけぬ事故だけで、契約者が故意に起こした事故や自殺などは対象外とされている。実際に最高裁は2001年4月に、傷害保険による保険金の支払いを巡って起こされた訴訟で、契約者が故意に起こした事故か否かの立証責任は契約者側にあると示していた。

 この判決を受けて保険業界には、傷害保険以外の自動車や火災などの損害保険でも「契約者が事故を故意に起こしたものでないことを立証しない限り、保険金を支払わないという風潮が広まってしまった」と保険法に詳しい専門家は指摘する。

 しかし2006年6月の最高裁判決は、自動車保険での「偶然な事故」とは、保険契約が成立した時に、事故が起こるか分からないことだという解釈を示した。損保会社が契約者の故意を理由に保険金を支払わないと主張する場合には、保険金を支払わない条件を定めた免責事項によって、損保会社が立証責任を負うと判断した。

 損保会社にとって自動車保険は、正味保険料収入の5割近くを占める。それだけに、従来の解釈が否定された衝撃の大きさは計り知れない。この最高裁判決は、なぜ出されたのか。

(日経ビジネス オンライン 大豆生田 崇志)


 名古屋市の中心部に事務所を構える飯田泰啓弁護士が依頼者の男性と出会ったのは、名古屋弁護士会(現愛知県弁護士会)の法律相談センターだった。法律相談に訪れた男性は、所有する自動車の前後と両側面にバールのような工具で大きく傷を付けられ、保険会社に車両保険の支払いを請求した。ところが支払ってくれないという内容だった。

 ただ、どこで誰が車体に傷を付けたのか、依頼者の男性には分からなかった。しかも男性が保険会社に連絡したのは、友人の経営する修理工場に車を持ち込む途中だった。さらに車は、まもなく車検を控えていた。

 飯田弁護士によれば、こうした事実から保険会社は、男性が車検前にわざと車に傷を付けて修理工場に持って行き、保険金を請求したのではないかと疑ったようだ。男性が失職中だったことも問題視した。そのため、この男性は保険会社から保険金詐欺のような物言いをされたとして、怒りをあらわにしていた。

まるで無罪主張する被告人

 飯田弁護士は男性の依頼を受けて、保険会社を相手取り、車両保険に基づく保険金支払いを求める訴えを起こした。見積もり段階の修理代や弁護士費用、それに保険会社の担当者への慰謝料も含め約100万円を請求した。

 裁判の争点は、事故は契約者が故意に起こしたものか、さらに故意であるか否かの立証責任が原告(契約者)と、被告(保険会社)のどちら側にあるかだ。保険会社が裁判で、事故が被告の故意によるものと主張した根拠は、原告の保険契約が切れる間際で、失職中だったという状況証拠だった。

 これに対して飯田弁護士は、男性の妻が仕事を持っていて、特にお金に困っているわけではないと反論。その証拠として当時、自宅のリフォームをしていたり、海外旅行にも行っていた事実を挙げたという。こうした反証を「必死に無罪を主張する被告人に近い心境だった」と飯田弁護士は振り返る。

 1審の地方裁判所では勝訴したものの、2審の高等裁判所では敗訴した。高裁は、2001年4月に最高裁が傷害保険の支払いを巡る訴訟では契約者に立証責任があると判断したのを理由に、男性に事故が偶発的に起きたと立証する責任があるとした。

最高裁判所の判決一覧

 

コメント3件コメント/レビュー

とても興味深く拝見しました。今まで漫然としか認識していなかった自動車保険の免責事項にこれだけの『落とし穴』があったことを、契約者でありながら恥ずかしながら初めて知りました。また、保険会社は普通に考えれば「それで免責になる」とは思えないような状況証拠をもとに不払い通知を平気で行っていたということを深く理解しました。すでに2年近く前の判決とは知らず、もっと情報感度を高めておかなければと自戒しました。(2008/03/13)

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いただいたコメント

とても興味深く拝見しました。今まで漫然としか認識していなかった自動車保険の免責事項にこれだけの『落とし穴』があったことを、契約者でありながら恥ずかしながら初めて知りました。また、保険会社は普通に考えれば「それで免責になる」とは思えないような状況証拠をもとに不払い通知を平気で行っていたということを深く理解しました。すでに2年近く前の判決とは知らず、もっと情報感度を高めておかなければと自戒しました。(2008/03/13)

自動車保険の場合、かなり昔から、高額の支払いが生じる案件になると担当者がころころ変わって不快な思いした消費者は多いと思う。近年「一人の担当者が最後まで責任を持って迅速な対応をする」旨をセールスポイントにする会社があり人気があることでも、業界に漂う全く逆の状況が多く顧客の不安と不信をかっていたことが分かる。「故意ではないことの立証責任が消費者側にある」という判決が出たのは、裁判官がそういう自動車保険会社の不実な態度を知らない世間知らずだった可能性が高い。もしくは汚職に近い悪意があったかだ。仮に世間知らずだったとしても、この理屈がまかり通れば保険会社側はその気になれば「事実上ほとんどの案件で保険金の支払いを拒否できる権利を手にする事になる」という想像力くらいは法律の専門家なら持っていて然るべきだと思う。(2008/03/12)

非常に興味深い記事であった.保険会社の不払いがなぜ起きたのか?疑問であったがその背景が理解できた.保険会社にも正義が求められ,その正義も含めて掛け金を支払っているのである.契約者の側に立った保険業の立ち直りを期待したい.(2008/03/12)

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三品 和広 神戸大学教授