政府の消費者行政推進会議(座長・佐々木毅学習院大学教授)は、消費者行政を一元化する新組織についての論点整理案を了承し、5月末に最終報告書を取りまとめる。新組織は、政策の企画立案や法執行、他省庁への勧告までを担当するという。
ただ、議論が進む消費者行政の一元化構想に対しては、懐疑的な見方も少なくない。事業者が不利になって景気に悪影響を及ぼすという慎重論もある。しかし消費者行政推進会議のメンバーである松本恒雄・一橋大学大学院法学研究科教授は「消費者が安心して市場に参加できるようなれば、まじめな事業者は利益を上げられるので市場は拡大する」と語る。
宙に浮いた年金や揮発油(ガソリン)税の暫定税率の問題の混乱で支持率が急落する福田康夫内閣。族議員と利権を持った省庁という強い結びつきがある関係に切り込む内容だけに、実現にはまだ紆余曲折が予想される。消費者保護を掲げてどこまで踏み込めるのか。松本教授に見通しを聞いた。
松本 恒雄(まつもと・つねお)氏
一橋大学大学院法学研究科教授
1977年京都大学大学院法学研究科博士課程中退、79年広島大学助教授、87年大阪市立大学助教授を経て、91年一橋大学教授。専門は民法・消費者法・コンピュータ法。現在、国民生活審議会消費者政策部会長、東京都消費生活対策審議会長のほか、2008年2月に消費者行政推進会議メンバーに就任。
松本 消費者行政の一元化と言うと、消費者問題に限った議論をしていると誤解されやすい。そんな議論をしているヒマがあったら日本経済をどうにかしてくれ、といった誤解もある。しかし消費者の視点から行政を考え直すのは、日本経済の成長には欠かせない。本気で取り組めば、行政に大きなパラダイム転換を迫るもので、2001年の中央省庁の再編よりも深い意味がある。
従来の日本の行政の仕組みは「発展途上国型」だ。それが一元化の議論の共通認識にある。高度成長期までの日本は、それぞれの産業を主管する役所が強い権限を持ち、縦割りで規制も産業振興も担う。結果的に一般生活者は経済発展の恩恵を受けて豊かになるという仕組みだった。しかしバブル崩壊以降の低成長時代に入ると、サプライサイド中心ではなく消費者サイドを重視した経済政策に変えなければ、成長は見込めない。
――消費者行政の一元化の議論に対しては、規制強化で事業者が不利になり、競争力が落ちて景気に悪影響を及ぼすという見方もある。しかし松本教授は、むしろ現在は、消費者が不安を抱えているために市場が縮小してしまっている問題が起きていると指摘する。
市場の縮小を招く消費者無視
松本 市場がもっと消費者が安心して参加できるものになれば、市場はもっと広がる。ところが現在は、消費者が不安を抱えているために市場が縮小している。
その典型例は、最近話題になった中国製ギョーザ中毒事件で示された。この中毒事件が起きてから冷凍調理食品市場は激減した。総務省の家計調査によれば、物価変動の影響を除いた実質で、今年2月の冷凍調理食品の消費支出は前年同月比30%減となった。農林水産省の輸入検査実績でも、中国産野菜の輸入が急減した。これによって業界は何千億円もの売り上げが落ちた。
安全や品質に悪影響を与える事件が起きて、市場が縮小した例はほかにもある。先日、消費者行政推進会議で中小企業団体にヒアリングをしたところ、住宅のリフォーム詐欺が横行した際には、中小零細の地域工務店が大変な迷惑を被ってしまったという。この経験から、中小企業団体は悪い業者をどんどん取り締まってくれと言っていた。
昨今、日本ではコンプラアイアンス(法令順守)不況という言葉が流行っている。例えば、金融業界では金融商品取引法の本格施行で、金融商品の販売に手間がかかり、業者側も販売に萎縮気味になっていたりと、法令を強化したことで市場の拡大を削いでいるという批判もある。しかし逆の理由でも不況は起きている。
きちんとルールを守らせる行政が行われていなければ、まじめな業者とそうでない業者の区別ができない。すると消費者が自分を守るために最善の方法は、門前払いすること。分からなければ、どんな誘いも断ることしかできないからだ。当然ながら、市場は小さくなる。安心して取引できるようになって、万が一トラブルが発生してもきちんと解決されるようになれば、消費者の財布の紐はもっと緩むだろう。
消費者と事業者の利害は対立していない
消費者と事業者の利害が対立しているという従来型の見方から抜け出せないと、消費者行政の強化と言えば事業者を不利にするものだと誤解しがちだ。しかし市場をきれいにすれば消費者も安心して買えるし、まじめな事業者にとっては全く損ではない。消費者にも事業者にとってもプラスだ。対立ではなくウィンウィン型を目指そうというのは、自民党の消費者問題調査会の報告書でも書いてある共通認識だ。
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