未成年の喫煙防止を目的とする認証制度が、販売店の選別を招いた。
導入が始まった地域では、たばこ自動販売機の売り上げが激減。
「街角のたばこ屋さん」は、過去の風景となろうとしている。
「父親から受け継いだ仕事だったけれど、赤字では続けられない」。宮崎県のあるたばこ店主が廃業を決意した。鹿児島県で50台以上のたばこ自動販売機を運営する専業店主は「ここまで落ち込むとは。たばこ自販機は公衆電話と同じ運命をたどるのでしょうね」とため息を漏らした──。

タスポによる成人認証を始めた地域でも、自動販売機の深夜販売自粛は続いている
3月1日、宮崎県と鹿児島県で、自販機でのたばこ販売に関する成人認証制度が始まった。自販機でたばこを購入する際に、顔写真付きの成人識別カード「taspo(タスポ)」をかざすことが事実上、義務づけられた。未成年の喫煙防止策の一環だ。このタスポ導入が、自販機で生計を立てるたばこ販売店の経営を揺さぶっている。タスポの普及が進んでいないためだ。
導入から1カ月余りたった4月6日時点で、喫煙者に占めるタスポの普及率は宮崎県が29%。鹿児島県は26%に過ぎない。日経ビジネスが10軒以上のたばこ販売店に聞いたところ、どの店主も「自販機での販売額はタスポの普及率に比例している」と口を揃えた。売り上げはタスポ導入前の約3割。7割減に落ち込んでいるということだ。
廃業を決めた前述の販売店の場合、以前は1台当たりの売上高が月に30万円あったが、タスポ導入後は10万円弱に減ったという。
月商15万円の採算ラインを割る
自販機で販売する商品の中で、たばこは長い間、“孝行商品”だった。軽くてかさばらず、補充などの作業負担が軽い。飲料のように商品を温めたり冷やしたりする必要もなく、自販機の電気代も安く抑えられるからだ。ただし、それも一定の売上高があってこそだ。
たばこの自販機は2007年末で全国に51万9600台(日本自動販売機工業会調べ)。このうち約7割がたばこメーカーからの無償貸与機だ。宮崎や鹿児島のような地方都市の場合、1台当たり月に20万円以上の売上高が見込める好立地には、メーカー貸与機が多く据えられる。もっとも好立地は限られるから、専業の販売店は自前で購入した自販機を設置し、売り上げの絶対額を「数」で稼ぐ。今回のタスポ導入に伴い、その自前機を併用したビジネスモデルが崩れた。
1カ月で15万円。自前機設置の採算ラインとされてきた売上高だ。たばこの販売店マージンは10%だから、1万5000円の収入ということになる。たばこの自販機は、機種にもよるがリース料が月に8000円前後かかる。これとは別に設置場所のオーナーに支払う場所代が、光熱費込みで3000円前後(粗利益の10~20%)。たばこを運ぶ際のガソリン代を含めると、人件費をゼロと考えても経費は1万円を超えるという。

こうした諸経費を差し引いて、手元に残る利益は1台3000円程度。月に15万円売る自販機を自前で50台所有して、手取りは15万円程度ということになる。「タスポ導入に伴う機械の改良費が1台当たり10万円以上かかった。この償却負担を考えると、15万円では厳しい」と宮崎県の郊外でたばこ販売を手がける店主は言う。実際はこの15万円すらも割る機種が増えており、販売店の収益を圧迫している。
そうなると頼みの綱は、リース料が不要なメーカー貸与機。だがそれも、「昨年ぐらいから、貸与の契約期間が従来の6年から3年に短縮された。売り上げが下がったままだと、3年後の見直しで貸与機も引き揚げられてしまう」(鹿児島市の専売店主)。
タスポ導入の余波は異業種に及ぶ。特需に沸くのがコンビニエンスストア業界。対面販売ではタスポを提示する必要がないためだ。「盆と正月が一緒に来た。たばこの売り上げは以前の2倍以上。8万円になった」と鹿児島県のあるコンビニの店主は明かす。ローソンは宮崎と鹿児島の両県で、たばこの売上高が前年比6割増えた。
タスポを既に入手しましたが、普及が進まないためか自販機に”○月○日 ***で 無料で写真撮影・身分証明書のコピーします”と張り紙がありました。 免許証でもOKになりそうですが、既に入手した人は損を見たということですね。また、タスポを仕掛けた人たちは、始める前にもっとあらゆることを想定してから開始して欲しかったです。想定外の自販機売り上げが激減は未成年者喫煙防止には良いと思います。現実には自販機がなくなっても喫煙者は困らないということですね。(2008/05/19)