「時事深層」

上場、もはや「目標にあらず」

新規株式公開が激減、4〜5月は各1社の惨状

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2008年4月28日(月)

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 「5月も新規上場予定の企業が1社しかない」──。

今年度はピーク時の半分以下も

 異常な事態に市場関係者は驚きを隠せない。2002年度から増加基調にあったIPO(新規株式公開)の企業数は、2006年度の187社をピークに急減。2007年度は9年ぶりに100社を割り込んだ。その傾向は2008年に入っても続き、4月の新規上場はたったの1社。5月予定は4月21日にようやく1社目が現れたものの、ゼロになるのではないかという憶測も飛び交った。

 このペースだと2008年度は80社を割り込むかもしれない。そうなれば東京証券取引所マザーズ市場、ナスダック・ジャパン(現大阪証券取引所ヘラクレス)開設が決まり「大公開時代」の幕が明けた1999年以降、最低となる。

 2006年1月に起きたライブドアショック後、新興株相場は下落。新興市場の代表的な株価指数である東証マザーズ指数の下落率は80%にもなる。

 株価低迷でチャンスを逸した上場予備軍の企業が、相場回復を身を低くして待っている。これが、IPO急減の背景にあると考えがち。しかし、実態は異なる。中小、ベンチャー企業の意識には明らかな変革が起きているのだ。

村上ファンドの騒動が転機に

 大阪府東大阪市。日本有数の中小企業密集地だ。高い技術力を持つメーカーが多いこの地でも異変が起きている。

上場希望企業が激減

 東大阪商工会議所の調査で、地元企業の上場への意欲が急速に後退していることが分かった。調査対象は、全国でトップクラスの製品シェアを持つ東大阪の有力50社。「いずれは上場したい」と考える企業は2001年度は23.9%と約4社に1社だったのが、2007年度は4.2%にまで落ち込んだ。

 小粒ながらも優れた技術と成長性を持ち、新興市場での上場にふさわしい実力を備えている企業がなぜ「あえて上場をしない」のか。

 平本善憲・常務理事は「技術力のある企業の間で『上場したら外資やファンドに狙われる』とする声が増えた」と語る。そのきっかけとなったのは、2005年から起きた「村上ファンド」による阪神電気鉄道株の買い占め問題だ。大阪の人にとり身近な大企業である阪神電鉄。ファンドに経営を揺さぶられるなど考えもしなかった。

 「ましてや小さな町工場などひとたまりもない」

 東大阪の経営者からはそんな声が聞こえてくると言う。

 そんな企業の1つユタカ。ネジや電子部品に使う微小球体の検査装置で世界的に高いシェアを持つ同社は、社員14人、売上高2億5000万円の町工場ながら上場意欲は強かった。

 ユタカの安田憲司社長はこう語る。「上場はもう魅力ないなあ。現場をよう知らん人が株主になったらかなわんし」。これが、未上場を貫く方針に転換した理由だ。

 株式を上場すれば当然、株主の意向に耳を傾けることになる。しかし、株主は目先の利益にこだわりがち。少人数で一分野に特化した技術を持つユタカのような企業では、家族的な経営で長期にわたって人材を育成し技術を伝承していく必要がある。そうなると株主との間で意見が対立することが目に見えている。

 ユタカが上場しないもう1つの大きな理由は、金融機関からの融資が以前より受けやすくなったことだ。東大阪地区では、ここ数年で京都銀行や南都銀行など近隣の地方銀行が参入し、地元信用金庫と相まって中小企業融資を強化している。上場する力を備えた中小企業なら融資は十分に受けられる。上場してまで資金調達をする必要はなくなっているのだ。

 上場をあえてせず、M&A(合併・買収)で大企業の傘下に入り、飛躍を目指すベンチャー企業も現れている。

 結婚式場運営のディアーズ・ブレイン(東京都千代田区)は今年度中の上場を目指していた。6月には東証マザーズに上場申請する予定で、監査法人の審査も順調に進み、主幹事証券も決めていた。しかしそこまで進めておきながら4月8日、ディアーズは上場申請することをやめ、カタログ通販大手の千趣会の傘下に入る決断をした。

中小企業はなぜ上場を目指さないのか

(写真:Koichi Kamoshida/Getty Images/AFLO)

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著者プロフィール

白壁 達久(しらかべ・たつひさ)

日経ビジネス記者。日経BP社入社後、日経ビジネス編集部に配属。翌年日経ビジネスアソシエ編集部へ移り、若手ビジネスパーソン向け経済情報を取材・執筆する。2007年から再び日経ビジネス編集部へ。重工、中堅・中小企業を担当。近年は第一次産業や人材業界に関する取材にも注力する。趣味は幼少期から続く宝塚歌劇鑑賞(月2回の観劇はマスト)と、ハマってから6年目になる阿波踊り。今年も徳島と東京・高円寺で踊る予定。

宇賀神 宰司(うがじん・さいじ)

日経ビジネス記者。1993年に日経BP社に入社し、パソコン専門誌「日経MAC」「日経クリック」「日経WinPC」の編集を担当する。2002年〜2004年、米ニューヨークに留学。帰国後、中小企業のためのIT化情報サイト「SMB+IT」「日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)」の編集を経て、2007年から「日経ビジネス」編集部。流通、中小ベンチャー、マネジメント、IT(情報技術)を担当する。2011年、約4カ月にわたりケニアの首都ナイロビに滞在。趣味はサーフィン、スノーボードとサンバ楽器演奏。



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