• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

官製不況、今度は「地方版」

消費者保護、環境、健康…条例が経済を揺さぶる

  • 田中 陽

  • 鈴木 裕美

バックナンバー

2008年7月15日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 ピンポーン。

 「先ほどお電話した秋田市民生協の高橋です。ご説明に上がりました」

秋田市民生協への加入活動をする高橋清志さん

秋田市民生協への加入活動をする高橋清志さん

 秋田市民消費生活協同組合の高橋清志さんは毎日約 50軒を訪れ、生協への加入を呼びかける。組合員数は約7万人だが、「春になると3000人も組合員が減ってしまう」(木村純一・専務理事)。手をこまぬいていてはジリ貧になるだけ。電話をかけ、家に出向き、組合員への勧誘を促す。この高橋さんのごくありふれた勧誘活動が秋田県内でできなくなるかもしれない。

 秋田県議会議員有志で作った「秋田県不招請(ふしょうせい)勧誘禁止条例案」に高橋さんの活動の一部が触れるからだ。不招請勧誘とは「消費者から要請がないにもかかわらず、一方的に行われる勧誘」。つまり「飛び込み営業」のことだ。

総論賛成、運用は反対

 秋田県に活動拠点を持つ企業や団体が「飛び込み営業禁止」条例案の存在を知ったのは今年初め。当初、消費者保護に反対する者などいなかった。というのも秋田県では2006年頃、先物取引に絡み高齢者を中心に被害金額約78億円の詐欺事件があったからだ。電話攻勢と飛び込み営業で大金を騙し取った。

 発起人の1人、津谷永光県議は「悪徳商法は後を絶たない。それを防ぐ」と条例案の目的を語るが、詳細が明らかになると事業者側が「経済活動が制限される」(秋田県銀行協会)と慌て出した。

 条例案通りだと、電話や訪問、電子メールでの勧誘に大きな制約を受けることになる。電話などによる誘いを煩わしいと考える県民は氏名や電話番号などを登録し勧誘拒否の意思表示をする。事業者は電話をかけていいのかどうかを県に照合するため、「行政コストだけでなく事業者コストも膨大になる」として日本訪問販売協会などが条例案に反対の姿勢を示す。

秋田県では「飛び込み営業」が軒並み禁止になる恐れがある

秋田県では「飛び込み営業」が軒並み禁止になる恐れがある

 自動車販売会社や、地域と密接に関連する冠婚葬祭業の活動にも影響を及ぼす。金融機関にはより厳しい規制をかけ、元本保証のない投資取引はすべて、電話や訪問、メールによる契約締結の勧誘行為が禁じられる。

 極めつきは65歳以上の高齢者への電話や訪問などによる勧誘をシャットアウトしている点だ。秋田県の65歳以上の割合は28%(約31万4000人)と島根県に次いで高い。こうした人たちへの接触も閉ざされてしまう。

 条例を厳格に運用すれば、1本当たり100円に満たない「ヤクルト」の宅配活動すらも制約を受けるそうだ。「消費者に時間をかけて商品のよさを説明するのがビジネスモデル」(ヤクルト本社東北支店の早坂健支店長)だが、健康に関心の高い高齢者の顧客開拓ができなくなる。秋田県には約600人の「ヤクルトレディ」が働いており、雇用問題にもなりかねない。

 ヤクルトは地域貢献策として自治体と組み、高齢者宅を訪問して話し相手になる「愛の訪問活動」を展開している。安否の確認や世間話を通して地域情報などを伝えるほか、山間部で地域に見知らぬ人がいれば自治体などに連絡する役割を担う。

 ヤクルトだけでなく大半の業界が65歳以上の高齢者への勧誘禁止に厳しい意見を持つ。

 5月20日に開かれた条例案に関する意見聴取で金融機関は「退職金を活用した投資へのニーズが高く、情報提供の機会が減る。高齢者に不利益な面もある。金融商品取引法による厳格な規制があり、営業の自由を過度に規制する」と猛反発。農協は「65歳以上でも農業に従事している組合員は多数おり、地域社会・経済に大きな影響を与える」と指摘した。

 消費者保護か消費者利益か。津谷議員も複雑な胸中を打ち明ける。「(条例案の成立には)高いハードルがある。厳しければ経済活動を制約し、条例不況になる恐れもある。しかし悪徳業者は手を替え、品を替えて高齢者に近づこうとする」。秋田県老人クラブ連合会は「全国のモデルになるような条例にしてほしい」と期待を寄せる。

 皮肉なのは、条例案の行方を固唾を呑んで見守る事業者のほとんどが健全な活動を展開している点だ。官製不況と悪名高い改正建築基準法は、一部の建築業者と建築士による不正がきっかけで建築業界の足を引っ張った。それでなくても秋田県は経済が低迷している。幅広い業界を巻き込む可能性のある条例案がさらに経済活動を萎縮させる恐れは十分にある。

コメント9

「時事深層」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

私の仕事は経営することではなく、リーダーであることです。

ジェンスン・フアン エヌビディア創設者兼CEO