「ニュースを斬る」

“リンゴ1個2000円”の虚実、輸出で農家は救われるか?

食料危機は最大の好機――今こそ作れ、儲かる農業(2)

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2008年7月15日(火)

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 「中国では1個2000円のリンゴや1粒300円のイチゴが飛ぶように売れている」。首相在任中、事あるごとにこう絶叫していた小泉純一郎・元首相。この言葉を引くまでもなく、一部の農作物は中国や台湾、中東などではかなりの高値で売れている。

 例えば、青森県産リンゴ。ドバイの見本市でキロ当たり約1400円(2008年3月上旬の価格)の価格がついた。中国・北京のイトーヨーカ堂では新潟産コシヒカリが2キロ198元(約3100円)と、中国産米の10倍の値段がついている。かなりの高価格だが、それでも売れている。

海外では高値でも、生産者の収入増につながらない現実

 国内市場は人口減少や高齢化で需要が縮小していく。1回目の「コメを解放せよ」で経済産業研究所の山下一仁・非常勤研究員がコメの輸出を提言しているように、海外に農産物を輸出して稼ぐことが、日本農業の新たな活路を開く。

 もっとも、現実は甘くない。

 農林水産物や食品の輸出額を2013年までに1兆円規模に増やすという政策目標を国は掲げているが、2007年の農林水産物の輸出額は4337億円。品目も約70%を水産物や加工品が占めており、コメや果実などの農産物の割合はそれほど高くないのが現状だ。

 それに、輸出の増加が生産者の収入増につながっているわけではない。海外で日本の農産物が高値で取り引きされているのは紛れもない事実だ。ただ、高い値段がついてはいるが、そのかなりの部分は物流コストや商社などへの費用として消えていく。

 こういった現状に直面し、果敢に自力で海外に販路を求め、「生産者が儲かる輸出」に取り組んでいるリンゴ農家がいる。それは、青森県の片山りんご株式会社。英国やスイス、中国などに高品質のリンゴを輸出している彼らは、儲かる輸出を実践している。片山りんごの、血のにじむような輸出奮闘記とは。

*本文中の写真は全てクリックすると拡大表示されます。

「『輸出のための輸出』という今の風潮はアホくさい」

5月から7月半ばまで続く摘果作業。雨の日は涼しくて仕事がはかどるという(写真:宮嶋康彦、以下同)

 「こっから(海外へ)ナンボか出ていくよ」。青森県のリンゴ農家、片山りんごの片山寿伸代表はこう言うと、まだ青く小さい「ふじ」の実のなる枝を指さした。取材に訪れた7月7日。リンゴ畑ではリンゴを間引く摘果作業が行われていた。この作業は7月半ばまでに終わらせる。この日も降りしきる雨を物ともせず、朝早くから、14人が作業に追われていた。順調に育てば、収穫が終わる11月半ばにもスイスの百貨店向けに輸出される。

 津軽半島のつけ根にそびえる岩木山。その山麓に16ヘクタールのリンゴ畑を持つ片山りんごは、全国でも指折りの大規模農家である。年間の生産量は約300トン。岩木山の東南北斜面で「ふじ」や「陸奥」「王林」「ジョナゴールド」などの品種を栽培している。

摘果作業で間引きされた小さな青いリンゴが足元に散らばる

 この片山りんご、リンゴの輸出に力を入れていることでも有名だ。海外での販売は同社の生産量の5%を占めている。さらに、地元の106農家と輸出専門の生産出荷組織「岩木山りんご生産出荷組合」を設立しており、この生産出荷組合の全体では、スイスに2トン、中国に15トン、アラブ首長国連邦のドバイの国際見本市に10トンの2007年産リンゴを輸出した。

 片山りんごが輸出に乗り出したのは1999年のこと。「王林」という品種のリンゴを英国の輸入商社に販売したのが最初である。その後、円高が進んだため、英国への輸出は止めているが、この数年はスイスや中国など、英国以外の国に販路を拡大している。

降りしきる雨の中での摘果作業を終えて

 海外の富裕層を中心に、品質の高い日本の農産物に対する需要は高まりつつある。国内市場の将来的な縮小が避けられない中、農産物の輸出拡大は国内農業が向かう方向性の1つに違いない。だが、農産物輸出という未開の荒野を切り開いた片山代表には、誰も彼もが「輸出」と叫ぶ現状が奇異に映る。

 「『輸出のための輸出』という今の風潮はアホくさい。農家の手取りが増えない輸出ならやらん方がいい」

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著者プロフィール

篠原 匡(しのはら・ただし)

昭和50年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日経BP社に入社。以後、主に「日経ビジネス」の記者として活動している。趣味は競艇と出張、庭いじり。著書に『腹八分の資本主義』(新潮社)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)がある。



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