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幻想の「AAA」国家、米国の憂鬱

サブプライム、GSE、そしてドル

2008年7月17日(木)

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 すべては、「高格付け」--AAA/Aaa(トリプルA)という記号が作り上げた世界であり、現代の金融関係者たちはそこに安住してきた。映画「マトリックス」の中でネットに接続され、眠り続ける人間たちのように。

「高格付けだから大丈夫」と信じて目をつぶってきたが

 そしていま彼らは、世界に抱いてきた信頼を次々と裏切られ狼狽している。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)をベースにした証券化商品から始まって、取引相手としての金融機関、保証会社としてのモノラインと次々に不安は広がり、米国政府による大手証券、ベアー・スターンズ救済で一服した。

 と思ったのも束の間、シティグループなどの損失穴埋めの大型増資に不安が募り、米大手地域金融には破綻も出始めた。金融不安はついに米国政府との関係の深いGSE(政府支援機関)である、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)にまで達した。

 が、それは、高格付けという神話を安易に受けいれてきた「他人任せのツケ」でもある。

 自ら考えることせず、他人の評価を鵜呑みにして、レバレッジをかけて(元手の多くを借金で調達して)急膨張させてしまった投資。それを解消したら、どれほど悲惨な結末を生むのか。その姿を未だに想像し得ないことも、市場が激しく動揺し続けている一因だろう。未来が見えない限り、不安は収まらない。

 未来を占うためには、過去を知ること。金融市場のマトリックスがどう崩れていったのかを、その世界に生きている市場関係者の目をハックして振り返ってみよう。視点は、この幻想世界を構成する「高格付け」への信頼、に据えて。では映画に習って、三幕構成で--。

「AAA」が支えてきたマトリックスは、こうして崩壊した

 ベアースターンズ破綻で昨年夏のサブプライム問題の幕が上がった時、金融市場は米金融当局と同様に、「これはサブプライムという、特定の分野の問題だ」という誤った認識を抱いた。特に株式市場は「グリーンスパン流の処方箋」つまり市場におカネを流し込むこと(流動性供給)と金利の引下げで対応可能と考えていた。

 だが金融機関本体の“別働隊”“トバシ先”との批判もあるファンド、SIVなどの簿外取引を含めると、サブプライムを組み込んだ証券化商品の評価損は想像以上に巨額になることが見え始め、「各金融機関の損失がどこまで増えるか解らない」という恐怖感に包まれた。これが第一幕。「そんな商品に、なぜAAA/aaaが付けられていたのか?」--高格付け神話の揺らぎである。

 そして次に、金融商品を保証する会社であるモノラインへの戦慄が走る。米国地方債と証券化商品にわたるその保証残高は2兆4000億ドルと言われる。サブプライム問題をキッカケにモノラインへの格付けが下がることになれば、そこが保証する商品への「AAA」が怪しくなり、評価損は更に拡大する。金融機関だけでなく、機関投資家にも大きな影響を及ぼすかもしれない。「高格付け神話が揺らげば、世界的な金融システム不安を引き起こす可能性がある」という警戒感が強まっていった。これが第二幕である。

 それでも市場にはFRBやECB(欧州中央銀行)が何とかしてくれるだろう、という期待感が残っていた。

不信は徐々に広がり、ついに本丸に

 そこに思惑通りの「幕間」が入った。米財務省とFRBがサブプライム問題に起因する不良債権増加で再起不能に陥ったベアー・スターンズの救済に踏み切ったからである。3月中旬以降、市場はやや落ち着きを取り戻したかに見えた。

 しかし、手持ちの金融商品の格付けがいつ崩壊するか分からなくなったことは、経済に大きな影響を与えずにはおかない。互いに相手を「実は深刻な損失を抱えているのでは」と考えて信用しにくくなったことから、銀行間の資金のやり取りは凍りついたままになり、経済面でも消費減退、企業業績悪化につながった。格付けへの疑義は、企業買収に使われるLBOローンから自宅の値上がり益を担保にした融資(ホームエクイティローン)まで、幅広い分野に拡大するとの警戒感が生まれ、市場不安は拡大していった。

 そして、「おカネは有限である以上、シティグループがやったような、損失を増資で埋める『金融再生増資』には限界があるのではないか?」と、市場関係者は薄々と気付き始めていく。損失拡大→増資→環境悪化→損失拡大、の輪廻がエンドレスに続きかねない状況で、本当に再生などできるのかという猜疑心が芽生えていった。

 格付けの穴から漏れていく信用。これをつなぎとめようとFRBは、投資銀行の受け皿構想や低利融資の続行を検討し始める。不動産市況の悪化で、地域金融機関の破綻懸念も強まり、金融機関のアナリストは、他の金融機関の損失予想や増資の必要性を執拗に主張するようになる。欧米金融への出資に当初は熱心だったSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド=政府系投資ファンド)も、それどころではないのでは、と一斉に沈黙してしまった。

 第三幕の幕開けである。主役の中にGSEが見える。

まっとうな現場感覚を失っていた市場関係者

 この段階でようやくGSEが主役として登場してきたということ。これこそ、現代の金融ビジネスが、如何にリスクの本質を見ないで単純拡大し続けてきたか、を端的に示している。格付けや数学的リスク管理法などの「制度的セーフガード」に過度に依存してきたことが「金融のアマチュア化・無防備化」を促進したと言い換えてもいいだろう。

 住宅問題を源とする金融不安が最終的にGSEへと伝播することは、ほぼ自明だったのだが、金融市場の参加者たちは、どっぷりと「AAA」の記号で埋め尽くされたマトリックスにはまり、「信用の自壊プロセス」を予測する、まっとうな現場感覚すら失くしてしまったのである。

 ならば、どうすれば幻影ではない「信頼」を市場関係者に取り戻せるのか。

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「幻想の「AAA」国家、米国の憂鬱」の著者

倉都 康行

倉都 康行(くらつ・やすゆき)

RPテック代表

1979年東京大学経済学部卒業後、東京銀行入行。東京、香港、ロンドンに勤務。バンカース・トラスト、チェース・マンハッタン銀行のマネージングディレクターを経て2001年RPテック株式会社を設立、代表取締役。立教大学経済学部兼任講師。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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