「児玉博の「見えざる構図」」

児玉博の「見えざる構図」

2008年8月26日(火)

影さす「特捜神話」

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 実質”無罪”。

 8月8日、東京地裁は福島県発注のダム工事を巡る汚職事件で前福島県知事、佐藤栄佐久に執行猶予付き有罪判決(懲役3年、執行猶予5年)を言いわたした。

 同じく収賄、競売入札妨害罪の問われていた実弟、祐二に対しても兄同様執行猶予付き有罪判決(懲役2年6カ月、執行猶予5年)を下した。

 捜査段階では容疑を認めたものの、公判では一転全面否認。事件は捏造だと検察側の取り調べ方法などを厳しく糾弾していた。

 それだけに、「主文。被告人、佐藤栄佐久を懲役3年に処する。刑の執行を5年猶予する」の判決が下されると顔色が明らかに曇り、落胆ぶりは傍目にもありありと分かるほどだった。

 判決によれば、佐藤栄佐久、祐二の兄弟は共謀のうえ、2000(平成12)年に福島県が発注した木戸ダム建設工事の入札で、準大手ゼネコン「前田建設工業」などの共同企業体が落札できるよう便宜を図り、その見返りとして祐二が経営していた紳士服会社「郡山山東スーツ」の時価8億円の土地を、工事を下請け受注した中堅ゼネコン「水谷建設」におよそ8億7372万円の高値で買い取らせ、差額およそ7372万円を賄賂として受け取ったというもの。

 当初、検察側の主張では「水谷建設」からの賄賂は土地売買の差額1億7372万円とされていた。つまり、東京地裁は事件は弟祐二主導で行われたものであり、1億円については栄佐久は報告を受けていなかったとして賄賂から除外した。

 検察側が賄賂と認定し、逮捕の決定的な根拠とした金銭の額が1億円も除外されることは異例中の異例のことである。

 東京地裁の山口雅高裁判長は、判決文の中で、「栄佐久被告は知事の実弟という立場を利用した祐二被告の不正を黙認していたのに、公判で反省の態度も示さず責任は重い」と前知事の罪を問い、兄弟共謀によって県政を私物化したと断罪した。

 けれども、検察側が、栄佐久の「前田建設工業」への便宜を図る際に元福島県土木部長を知事室に呼び出し、指示したとされる日時の面談記録に元土木部長の記録が残っていないことが公判で明らかになるなど、検察側にも矛盾点が多かった。

 検察側は行政の長に立つ兄、それを利用する弟という構図を、3年前に摘発した事件と同じ構図に見立てようとしていた節がある。

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著者プロフィール

児玉 博(こだま・ひろし)

ノンフィクションライター。1959年生まれ。主な著書に『降臨―楽天・三木谷浩史の真実』『幻想曲 孫正義とソフトバンクの過去・今・未来』(共に日経BP社刊)などがある。


このコラムについて

児玉博の「見えざる構図」

ニュースの背後では何が起きているのか。事件の裏側には必ず錯綜する人脈、金脈などが存在する。このコラムでは日本を揺るがすニュースについて、気鋭のノンフィクションライターが、その「見えざる構図」を明らかにする。

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