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20期連続増収増益、食の巨人・菱食の蹉跌

過去の成功体験の呪縛から企業は脱却できるのか(上)

2008年8月27日(水)

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 菱食が奇妙な研修を始めた。全国から選抜した中堅、若手社員を集めた研修だが、当人たちに研修の目的や内容は何1つ教えない。当日、集まったメンバーに与えたタスクは「会社の土壌改革の施策を考えて提案せよ」。期間は3カ月。会社は何の方向性も示さない。手探りで考えさせた案は、最終的に社長や役員を前に説明させる。

 なぜ自分が選ばれたのか、メンバーは理由が分からない。何をすればよいのか、初めのうちは見当もつかない。研修が始まっても日々の業務はそのまま。戸惑いと不安の中、初対面のメンバー同士が議論するのだからストレスもたまる。

 これは、菱食が2008年1月に始めた「トップガン・プロジェクト」。組織風土を一から作り替えるために始めた研修だ。通り一遍、お仕着せの階層別研修ではなく、会社の土壌を変えるための施策をゼロベースで考えさせる。社員には“ショック療法”さながらだろう。

 1990年代、他社に先駆けて物流の効率化やIT(情報技術)化に取り組んだ菱食は食品卸業界で圧倒的な強さを誇った。だが、最近の菱食は精彩を欠く。2007年12月期は減収。2008年12月中間期には、7億円余りの最終赤字に転落した。

 食品卸に必要だったのは効率よく、正確に店頭まで食品を運ぶこと。だが、個人の嗜好が多様化する今、消費者のニーズまで把握し、小売りにきめ細かな売り場を提案しなければ、卸といえども生き残ってはいけない。それに対して、物流効率を最大限に追求した菱食の組織は上意下達。この“考えない組織風土”は効率の時代には武器だったが、変化の時代には足かせになる。

 おいしい農作物を作るためには土作りが何よりも大切。それは企業でも同じだろう。だが、強烈な成功体験を持つ菱食の土壌は、かちかちに踏み固められている。過去の成功体験にとらわれ、隘路にはまっている大企業は菱食だけではない。新たな成長の芽を育むためには、血のにじむような苦労を組織に強いることも必要だ。土壌改革という根本から着手した菱食の組織改革はそれを如実に表している。

研修は“毛虫の駆除”から始まった

 肌を焦がすような日差しが照りつける7月14日、千葉県船橋市にある研修施設には、菱食の東京支社に勤める20人の社員が集まった。1泊2日の研修に集まったのは、20代後半から30代後半までの中堅・若手社員。5人ずつ4チームに分かれた彼らは、ホワイトボードに色違いの付箋を張りながら少し変わった討議をしていた。テーマは「毛虫の駆除」。以下のような問題設定だった。

研修初日、トップガンのメンバーは“毛虫の駆除”について議論していた(写真:大槻純一、以下同)

 自生するツバキが有名な島があった。ツバキ目当てで訪れる観光客は数多い。ところが、毛虫が大量に発生。毛虫に刺されて肌が腫れる子供が出るなど被害が出始めた。ツバキは島の観光資源だが、問題を放置するわけにもいかない。ではどうするか――。町役場の職員になったつもりで対策を考えるのだ。

 この問題に正解はない。毛虫問題を解決するため、ツバキの木を切ってしまうという考え方はもちろんあるだろう。問題を放置する代わりに、医療体制を整えるという選択肢もあり得る。チームの結論を出すため、現状を分析し、課題を抽出する。その後、課題に対する対策を考え、アクションプランを練り上げる。

 これは、問題解決の手法やプロセスを学ぶ研修の一コマ。これから始まるプロジェクトのための基礎訓練である。

“糊しろ”が無くなりかけている菱食

 この日の研修は、菱食が始めた「トップガン・プロジェクト」の一環だ。このプロジェクトは別名、「土壌改良プロジェクト」と呼ばれている。自分で考え、結論を出し、行動に移す――。そういう土壌に、組織を変えるための活動である。

グラフ:菱食の業績推移

 1986年以降、20期連続で増収増益を続けた“食の巨人”に明らかな異変が起きている。2006年12月期の連結営業減益を境に、翌年は2.6%の売上高減。2008年12月期の中間決算では7億円強の最終赤字に陥った。この数年の菱食には停滞感が漂う。

 中国製冷凍ギョーザの中毒事件による冷凍食品の販売減少、天候不順の影響に伴う酒類や飲料の落ち込みなどが最終赤字の直接的な原因という。もっとも、根本的な原因は多様化する消費者のニーズに対応し切れていない、という面の方が大きい。

 「今は糊しろの時代」。菱食の中野勘治社長は現状をこう表現する。菱食は1990年代、ITを駆使することで食品メーカーが作る加工食品を正確に、効率よく店頭に並べるモデルを作り上げた。20年続けた増収増益はこのモデルが機能したからだ。だが、加工食品の需要は2000年頃をピークに減り続けている。過去の糊しろがある今のうちに、新しい事業モデルを構築しなければ、10年後の菱食に未来はない。

 しかも、最近では効率的な商品の配送だけでなく、小売りに対する売り場作りの提案や商品企画が食品卸に求められるようになった。今後は営業担当者が顧客ごとに最適な提案をしていかなければならない。だが、物流効率を最大限に追求することで急成長を遂げた菱食は上意下達の社風。部署を超えたコミュニケーションもほとんどない。

 新しい菱食を再構築するためには、何よりも社内の土壌を変えていくことが先決。そう考えた中野社長は、組織風土を一から作り替える道を選んだ。いわば、畑で取れる作物の品質を良くするために、土作りから始めたわけだ。だが、土壌改革は口で言うほど簡単ではない。それを説明するために、時計の針を半年ほど前に戻そう。

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「20期連続増収増益、食の巨人・菱食の蹉跌」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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