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「ライフスタイルの翻訳者」、売れない時代はこれで生き抜く

過去の成功体験の呪縛から企業は脱却できるのか(中)

2008年8月28日(木)

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 社員の指示待ち体質、縦割り組織、コミュニケーション不足――。20期連続で増収増益を果たした食の巨人、菱食がこの組織風土の改革に挑戦している。2008年12月中間期に7億円余りの最終赤字に転落した根本の原因は、硬直した組織にあると見たからだ。

 中野勘治社長の肝いりで始めた社内研修、「トップガン・プロジェクト(通称、土壌改良プロジェクト)」は、組織の土壌をドラスチックに変えるための大胆なもの。

 選抜した社員に、会社の組織風土を変えるためのアクションプランを提案させる。会社は議論の方向性について、一切口をはさまない。選ばれたメンバー自身が一から十まで考え、その結果を経営陣にプレゼンする。

 3カ月にわたる試行錯誤と議論の末、選抜メンバーは菱食が新たに進むべき方向を見つけ、会社再生のプランを作り上げた。日常業務だけでも多忙なメンバーに、さらなる負担を強いた結果として出たものだった。

 「会社の経営は経営者がやること。自分は目の前の仕事だけをやっていればいい」。そう評論家然と会社批判をする社員。彼らに当事者意識を持たせなければ、菱食の未来はない――。プロジェクトを断行した背景にあったのは中野社長の強い危機感だった。

 「マグマを表に出したかったんですよ。地表の下に、もやもやしているヤツが絶対にいるはず。入社後、10年ぐらいたって、会社の現状に問題意識を持っている連中は必ずいる。そういう連中を表に出すために、地表を揺するようにして穴を開けることが重要だなと」

 なぜトップガン・プロジェクトを始めたのか。中野勘治社長にそれを尋ねると、開口一番こう言った。

 1兆3993億円(2007年12月期)の売上高を誇る菱食。食品卸業界では国分に並ぶ業界の雄である。1979年に三菱商事系の食品卸4社が統合して誕生。その後、80~90年代にかけて急成長を果たした。スーパーやドラッグストアなど小売店舗ごとの小分け配送や定時一括納品、販売支援など、時代に合わせて卸の機能を強化してきたためだ。特に、IT(情報技術)の徹底活用では他社の先を行った。

「20世紀卸」のトップに上り詰めた菱食だったが…

 メーカーと卸、小売りとの情報共有、電子決済の基幹システム「TOMAS」を導入したのは86年のこと。90年には小分け配送や定時一括納品を可能にするRDC(地域配送センター)の第1号を岡山に開設した。さらに、97年には新しい基幹システム「NEW-TOMAS」を全社に導入している。この時には70億円を超える資金を投下した。89年から18年間、経営トップを務めた廣田正・相談役の炯眼である。

 こうした取り組みの結果、95年に食品卸として初めて東証2部に上場。97年には東証1部に鞍替えした。2005年12月期まで20期連続増収増益という快挙も実現している。卸不要論がささやかれた中での躍進は、効率的な物流システムを構築し、顧客のニーズに応えてきたからにほかならない。

 ところが、2005年12月期をピークに、菱食は踊り場に差し掛かった。

 2006年12月期。1兆4367億円と売り上げこそ過去最高を記録したが、営業利益は57億円と前年度の半分に落ち込んだ。2007年12月期には増収記録も途絶えた。そして、2008年12月中間期は最終赤字である。中国産冷凍ギョーザの中毒事件などが直接的な要因だが、それ以上に消費者や小売りの変化に対応できなくなったことも大きい。

 「20世紀型ではなく、21世紀型卸のビジネスモデルを構築しなければこの会社に明日はない」

 中野社長は危機感を隠さない。ITを駆使することによって、菱食は食品メーカーが作る加工食品を正確に、効率よく店頭に並べるモデルを作り上げた。これが、中野社長の言う20世紀型卸である。現実に、菱食は20世紀型卸ではトップに上り詰めた。

 だが、加工食品の需要は2000年前後をピークに減り続けている。しかも、競合他社もITを駆使した物流の効率化に取り組んでおり、以前のような差別化が難しくなりつつある。20世紀型卸としての蓄積が残っているうちに、21世紀型卸のビジネスモデルを作る必要がある。

企業を変えるのは100人の核

 もっとも、徹底した効率化で効率を追求してきた菱食は個性を排除した上意下達の社風であり、一人ひとりの社員が「考える組織」とはお世辞にも言い難い。また、度重なる合併で拡大してきたため、部署を超えたコミュニケーションも希薄だ。

 一方、単なる効率的な商品の配送だけでなく、小売りへの売り場や商品の提案が食品卸に求められている。個々の営業担当者が顧客ごとに最適な提案を自分で考えなければこうしたニーズには対応できない。部門間の横の連携も必要だろう。

 そのためには、企業風土を根底から変える必要がある。このまま古い革袋に頼り続ければ、中身の酒はいたずらに失われるばかり――。それを痛感した中野社長は、廣田氏の成功体験を知らない30代に、新しい革袋を作らせようと考えた。「トップガン・プロジェクト」という経営提案の場を作ったのは、40~50代という中間管理職以上の岩盤の下で、熱を持つマグマを表に出すためだ。

トップガンのメンバーには、菱食を“考える集団”ことが期待されている

 そして、そのマグマを核に、考える集団に菱食を生まれ変わらせようとしている。実際、1回目と2回目のトップガン・プロジェクトで100人の核が生まれた。菱食の社員数は単体で2400人ほど。しっかりとした核さえできれば、後は自動的に広がっていく。中野社長はそう睨んでいる。

 中野社長は菱食プロパーではない。冷凍食品大手、ニチレイの専務を務めた後、2003年に菱食とニチレイの合弁会社、アールワイフードサービスの社長に就任。その後、2006年10月に菱食が同社を吸収合併したことで本体の副社長になった。いわば門外漢。だからこそ、菱食が抱える病理が見えたのだろう。

 トップガン・プロジェクトは菱食という畑の土を一から作り直すために始めたもの。では、中野社長は新しい土にどんな種を植えようとしているのか。その答えは、中野社長の発した「21世紀型卸」という言葉に隠されている。

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「「ライフスタイルの翻訳者」、売れない時代はこれで生き抜く」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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