買ったばかりのマンションに雨漏りが見つかり、設計と工事監理を手がけた設計事務所と建築を請け負った建設会社(以下、建築業者)に直してくれと訴えても簡単な補修しかしてもらえない。これまでこうした欠陥住宅を巡る係争では、買い主が泣き寝入りを強いられるのが半ば常識だった。しかし、その常識を覆し、不動産業界や法曹界に衝撃を与える判決が昨年7月、最高裁から下された。
この係争は、ベランダのひび割れや、手すりがぐらつくなどの多数の欠陥を抱える新築マンションを購入した大分県の買い主が、建築業者を相手取って起こしたもの。最高裁は、欠陥を生じたのは建築業者に責任があるとし、審理を福岡高等裁判所に差し戻した。
この最高裁判決が画期的とされるのは、マンションの売り主ではなく、建築業者に責任があるとした点だ。従来の考えでは、買い手は直接の契約相手である売り主にしか損害賠償を請求できないと考えられていた。しかし最高裁判決は、売り手以外の建築業者の責任を問う訴訟に大きな道を開いた。
加えてこの最高裁判決は、建築業者の負う責任の対象を広げた点で画期的とされる。従来は当事者である買い主に限られていたが、今回の判決では、買い主以外の居住者や建物の利用者、建物の隣人や通行人などに対しても、建物の基本的な安全性に配慮する義務を負うとした。
従来の欠陥住宅の係争は、買い主が販売物件に隠れた欠陥を知らずに購入したことで生じる「瑕疵担保責任」を負うか否かで判断していた。ところが最高裁判決で責任の対象が広がったのは、故意または過失によって他人の権利や利益を侵害する「不法行為責任」の規定に基づいて追及するのを認めたからだ。
瑕疵担保責任の時効は、欠陥があることを知ってから1年だが、不法行為の場合、被害者が被害や加害者の存在を知ってから3年、または被害が生じてから20年と長い。違法な工事でなくても人の身体、生命、財産に危険を及ぼす建物の欠陥について、建築業者は20年間も責任を負うことになる。業者に厳しい最高裁判決の背景には、行政の方針転換があった。
大分県の別府湾を望む場所に建設されたそのマンションは、9階建てと3階建ての2棟からなる。1988年10月に、売り主の男性が所有していた土地に、設計と工事監理、施工をそれぞれ地元に拠点のある設計事務所と建設会社に依頼して建てた。90年5月に売り主の男性が5億6200万円でマンションと土地を引き渡したのが、最高裁で争うことになった原告の女性だった。
その女性は無収入。しかも息子にはアルバイト収入しかなかったという。今後の生活のためにとマンションを購入して、マンションの賃貸収入で生計を立てる予定だった。
ところが完成したマンションに、あちこちに欠陥が見つかった。ベランダや床のひび割れなどは、ほんの序の口。海に面した部屋は、アルミサッシの窓とコンクリートの壁面の隙間にあるコーティングの充填が不十分で、どこからも雨漏りがする。洗面台は本来必要な補強もせずにボルトで直接壁面に取り付けられていたため、手を載せるとガタッと落ちて壁に穴が開く。壁がたわんでドアが開かない部屋も多かった。
大分県にある原告が所有していたマンション
中でもベランダのひび割れは、通常とは違って単純にコンクリートが収縮する際に生じるものではなかった。このベランダと並行にひび割れが走っていて、要するにベランダの重さに鉄筋が耐えられず落ちようとしていた。
調べてみると、コンクリート内部の上から深さ2〜3センチの位置にあるベランダを支える鉄筋が6センチも沈み込んでいた。これも常識ではあり得ない、がさつな工事がもたらした。
通常、施工時には建設関係者は鉄筋を踏まないように渡り板の上を歩く。ところがこの工事では渡り板がなく、直接、鉄筋を踏みつけて歩いていたと見られる。そのため鉄筋が押し下げられていた状態のところに、生コンが流し込まれていた。
1審から通常とは違う訴訟に
原告の女性は、大分地方裁判所に設計事務所と建設会社を相手取って総額6億4000万円の損害賠償を求める訴えを起こした。だが、これは通常の訴訟のやり方ではなかった。
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