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凶悪犯の逮捕が不正の“芽”を温存した皮肉

中国の証券史上最大の「黒洞」の深奥を探る― 検証「アジア・メディア」事件【第3回】

  • 田原 真司,小瀧 麻理子

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2008年9月25日(木)

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 東証マザーズを舞台にした「アジア・メディア事件」。その源流になった宏智科技の資金黒洞事件。そこに深く関与していた崔権平と海豚科技は、中国メディアの報道で疑惑の線上に浮上した。

 目に余る企業統治の乱れを憂慮した中国の証券管理当局は、宏智科技に再三警告を発し、事件に関する情報を断片的ながら開示させた。それがメディアの関心を呼び、2003~2004年にかけて大量に報道された。これら公開情報のほとんどは、現在も上海証券取引所のホームページや、中国の検索サイトで容易に探すことができる。

 崔建平と宏智事件のつながりは明白だった。にもかかわらず、東京証券取引所、主幹事の野村證券、会計監査のあずさ監査法人、法律顧問の森濱田・松本法律事務所という「オール・ジャパン」は、なぜ、その崔建平が創業経営者を務めるアジア・メディアの東証上場を支援したのだろうか。宏智事件を誰も知らなかったとすれば信じがたい失態だ。

 「イロハのイを怠ったとしか思えない」と、中国企業の実態に詳しい証券関係者は首をかしげる。

 東証の関係者は「審査は厳格に行ったが、中国語が堪能な人材が欠けていた」と、情報収集の体制が不十分だったことを認める。また、ある事情通によれば、あずさの会計監査チームにも中国語を話せる人材は皆無だったという。とはいえ、野村と森濱田・松本は中国に現地事務所を構え、中国語を話せる人材も少なくない。言い訳は通用しない。

 それでも、オール・ジャパンは上場審査に最善を尽くしたと信じたい。では、崔はどうやって厳しい審査の目をごまかしたのだろうか。

 答えを考えるヒントは、やはり宏智事件の中にある。
 回り道のようだが、異常性に満ちたこの事件の検証をいましばらく続けたい。

*    *    *    *

 2002年7月に上海証券取引所に上場した中堅ソフトウエア開発会社、宏智科技。創業メンバーで総経理(社長に相当)でありながら会社から追われ、経営権奪回を目指す王棟は、崔権平の加勢を得て臨時株主総会を招集したが、彼を追い出した黄曼民らの反撃で失敗に終わる。自分の総会の有効性の確認を求めて訴えを起こした王に、裁判所は黄らの取締役会が合法という裁定を下した(前回参照)。王は裁定を不服として上告したが、裁判所は上告を棄却し敗訴が確定した(中国は二審制)。「双頭の怪物」と呼ばれた2004年1月11日の総会から、5カ月後のことだった。

 ところが、ここで予期せぬどんでん返しが起きた。2004年6月23日、宏智科技の第2位の大株主である李少林が新たな臨時株主総会の招集を提起し、黄ら現任の取締役全員の解任を求めたのである。

 1カ月後の7月23日に開催された総会では、李の株主提案は出席者の全会一致で可決され、新たな取締役が選任された。筆頭株主の王は総会に代理人を派遣して賛成票を投じた。解任された黄の姿はどこにもなかった。

 発行済み株式の15.8%を所有する李は、1月11日の総会では黄の側につき、王の株主提案を否決していた。それが一転して王と手を結び、宏智科技から黄のグループを追放したのだ。

 一体何が起きたのか。実は6月14日、黄は詐欺と職権乱用の容疑で公安当局に逮捕されていた。司令塔を失った黄のグループは自壊した。李は混乱に乗じてグループと袂を分かち、王と組んで一気に宏智科技を掌握した。

 では、黄はなぜ逮捕されたのか。その直接の容疑は、宏智事件に関わる不正ではない。中国証券史上最大の資金黒洞事件と呼ばれる「ミン発事件」に、主犯の腹心として深く関与していたのである。

証券会社の預かり資産を平然と横領

 ミン発事件は、福州市に本社を置く中堅証券会社「ミン発証券」が事件の中心になったことから、そう呼ばれている。主犯は、大株主として同社を実質支配していた呉永紅と、呉の招きで実務を任された董事長の張暁偉。2人はミン発証券を私物化し、顧客から預かった資産を平然と横領していた。その総額は20億元(約320億円)とも、それ以上とも言われている。

 だが2003年、同社は国債市場での投資失敗で巨額の損失を出し、資金繰りが急速に悪化した。その過程で、呉と張の乱脈経営が次々に明るみに出た。2004年12月、ミン発証券は100億元(約1600億円)近い負債を抱えて経営破綻し、資産を預けていた多くの個人や企業が被害に遭った。宏智事件とは桁違いに巨大なブラックホールだったのだ。

 それだけではない。主犯の呉は、未成年の少女39人を次々にレイプした凶悪犯として2002年7月に指名手配されていた。その前年、呉は大金を持って国外に逃亡。その後も海外から腹心に指示してミン発証券を操っていた。宏智科技の黄は、呉の指示を受けて動く“実行犯”だった。

 しかし乱脈経営の表面化で、まず2004年4月に張が逮捕された。その2カ月後、偽名を使って密かに帰国した呉が、深センで拘束される。相前後して腹心の黄も逮捕された。

 宏智科技の内紛で黄に敗れ、裁判所にも見放された王(そして王に味方した崔建平)は、呉という巨悪の逮捕により命拾いしたのだ。皮肉にも、これが後のアジア・メディア事件の“芽”を温存することになった。

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