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メラミン粉ミルク事件を呼び込んだ「免検制度」

中国のネット市民の声が暴くもの

2008年10月15日(水)

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 今から約1カ月前、9月9日付の「蘭州晨報」という、やや小さな地方新聞が、6月28日から9月8日の間に蘭州の解放軍第一医院に“某ブランド”の粉ミルクを飲んだ嬰児14名が腎臓結石に罹って治療を受けていたことを報じた。中国のネット情報は、「メラミン粉ミルク事件」(粉ミルクに化学物質メラミンが混入していたために多くの乳幼児が腎臓結石に罹っていた)を、責任の所在が明確となる紙媒体で最初に公にしたのはこの報道だとしている。

 続いて湖南省、湖北省、山東省、安徽省、江西省、江蘇省等の比較的小規模な地方新聞につぎつぎに同様の記事が載るようになった。このころ、ネットにはすでに多くの強烈な抗議が書き込まれるようになっており、その勢いに押されたのか、遂に中央も公開に踏み切らざるを得なくなり、9月11日に政府直属の通信社である新華社が、そして大都市上海の大手新聞である「東方早報」が、ほぼ同時にその“某ブランド”の名前を明らかにした。

 企業名は三鹿集団(グループ)。

 この情報は“毒粉ミルク事件”あるいは“汚染粉ミルク事件”として全中国を震撼させた。粉ミルクは中国語では“奶粉”と書く。

 しかし実は、腎臓結石に罹った嬰児が出現し始めたのは2008年3月からであるとする情報もあり、2008年9月13日付の「中国網」によれば、たとえば湖南省児童医院では3月以来35人の腎臓結石嬰児を受け入れており、そのうち20人以上が出生後長期にわたって“三鹿嬰幼児粉ミルク”を飲用していたことが判明していたという。

 すでに何回かこれまでの記事で申し上げてきたように、中国庶民のもっとも素直な声はネットにある。

中国での素直な意見はネットにある

 実名を出せない意見についての信憑性を問う方もいらっしゃると思うが、中国では政府批判的な言論の自由が制限されているため、匿名性のあるネット世界は、中国政府にマークされたり生活を脅かされたりする危険性が低いので、真実の声を拾い上げることができるという可能性が大きい。

 この「毒粉ミルク事件」を中国庶民がどう受けとめているのかを、ネットから探ってみたい。

 三鹿には3月に既に消費者からのクレームが届いていた。それがどんどん増え始めたので、8月に入り三鹿は河北省の地方人民政府に報告したようだが、地方人民政府はそれを中央に上げようとはしなかったと、ネットにはある。

 三鹿集団の所在地は河北省の石家庄。例の毒餃子事件があった天洋食品のすぐ近くだ。天洋食品は封鎖されて人影もなくなったが、対象的に三鹿集団の前には抗議に集まった庶民が途絶えることがなかったという。

 しかし、このスキャンダルが公的なメディアによって公表されることはなかった。

 それは、なぜなのか――。

 非常にデリケートな問題ではあるが、中国語のネットでは、一つには「オリンピック開催」と関係があるとしている。そしてもうひとつの大きな問題が「免検制度」だ。まず前者から見ていこう。

 「天涯網」というウェブサイトの中に「天涯来吧」(Tian-ya Lai-ba)(天涯においでよ)という書き込みコーナーがあるが、そこが衝撃的な暴露記事を載せた。

 「三鹿集団公関解決方案建議」(「三鹿グループの広報問題解決方法に関する建議」。公関は公共関係の略で広報の意)と題するその記事だ。そこには「これは三鹿広報が三鹿危機広報に宛てて書いた手紙であるといわれている」という注釈がついている。

 信憑性のほどは分からないが、それが次々と転載され、その中の多くには原文のコピー(画像)まで載っているところを見ると、少なくとも多くのネット市民がこういう視点で毒粉ミルク事件を見ているという証拠の一つにはなるだろう。手紙の日付は2008年8月11日。以下に、その画像と概要をご説明しよう。

集団の指導者の皆様:

三鹿広報が三鹿危機広報に宛てて書いた手紙

 現在は目下、北京オリンピック期間であるため、食品安全等に関するマイナス情報への政府の関与があるので、三鹿粉ミルク結石というマイナス情報に関しては、ちょうど良い転機が来たということができる。しかし油断はするな。なぜならまだ表ざたにはなってない重大な災禍が潜んでいるからだ。

  1. 三鹿の食品安全問題に関するスキャンダルは、オリンピック期間は平静でいられると思うが、しかしオリンピック後も依然として平静でいられるとは限らない。このスキャンダルが広まると、集団にはかなりの打撃となる。
  2. この事件は消費者側から見れば、長期的影響を受けるものであり、企業が一次的に安堵していられたとしても、おそらく消費者心理を完全に満足させることは不可能だろう。もしも個別の消費者がわれわれの解決方法に不満を抱き、ライバル企業に救援を求めるとなると、非常にやっかいなことになる。そこで、今も潜んでいる二大災禍を押さえ込むために、わが企業は結石事件に関して以下のような建議を行う。

 すなわち、オリンピック期間の平穏を利用して、三鹿集団がこの困難なマイナス情報に対する戦役を勝ち得るように(以下の方法によって)協力してほしい。

一、
消費者を落ち着かせ、1~2年間は絶対に口を開かせるな
オリンピック期間は、消費者の要求を満たし不満を抱かせず、2年間は(消費者に)二度と再び、この事件を口にしないようにさせること。
二、
“百度”(Baidu)ポータルサイトと合作し、新聞言語活動権を掌握すること

 オリンピック期間をしっかり掌握して、“百度”と良好な関係を構築し、スキャンダルが暴走しないようにコントロールし、新聞広報の主導権を握ること。

 百度は全てのウェブサイトの集結地であり、多くの消費者が検索情報を得る主要な陣地でもある。現在、百度において新聞広報保護政策の恩恵に与っているのは、蒙牛、伊利、匯(の簡体字)源などである。これらの企業は年間500万元(約7500万円)の広告投資を行っている。三鹿集団の製品はこれらの企業の製品ほどには(百度における)広告が多くないので、300万元にしてもらうということで、百度とは概ね話がついている。それにより三鹿集団に関するマイナス情報は削除されるであろう。

 但し、今のところ百度には、まだ腎臓結石の話はしていない。だから300万元で済んでいるが、もしこのことが分かり、書き込みが爆発的に増え始めたら、必ず広告費の増額を要求してくることだろう。だから、どんなことがあっても、オリンピックという、この特殊期間内に300万元で協定を結ぶよう、強烈に建議する。

 調印後に小さなサイトにおいて悪意報道が成されたとしても、これは削除可能だし、もし国家権威機構への通報あるいは重大な影響をもたらす新聞報道等が発生した時には、三鹿集団は直ちに政府の広報関係部門の上層部と接触して調整してもらい、波瀾を抑えて公共メディアと折衝してマイナス影響を減少化させるように共に協力し合い(筆者注:賄賂を払ったりコネを使ったりすること等を意味する、と解釈される)、小事化させてしまえば、事は済む。

三、
攻撃を以って最大の防御とし、腎臓結石をもたらす同業製品に関するライバル企業の消費者に対するマイナス情報を掻き集め、有事のための準備をせよ

 今回の腎臓結石事件はおそらく他のライバル製品にも及んでいるはずだ。これはただ単に三鹿製品の問題だけでなく、同業製品に関する基準問題に及ぶはずである。

 そこで人員配置を充実させ、ライバル商品における同類の事件に関する消費者資料を集め、それを以って戦うための有力な武器とせよ。悪意に満ちた報道が成されれば、こういった他のライバル商品に関する資料を利用して反撃のための武器とし、(三鹿集団の)問題点を同業基準問題に転化させ、メディアと消費者の視線を(三鹿から離して)他に移し、同業者協会の支持と救済を求め、三鹿集団に対する悪影響を最小化することに邁進せよ。

(中略)

2008年8月11日

 概ね以上のような内容が書かれた「手紙」である。これがネット上を次から次へと転載されて、攻撃を加速させた。

 のちに大手新聞の「南方都市報」はポータルサイトの「百度」を取材して事実確認を行ったところ、「そのような事実はない」と答え、「事実、百度には三鹿に関するマイナス記事が出ており、それが証拠だ」と答えたとのことだが、筆者が調べた限り、残っているものもあるが、削除されているものもあり、削除したのがどの組織かはわからないが、少なくとも「百度_石家庄所諱吧毒餃子和毒渚奶粉為什麼都是石家庄出是事?」(百度_石家庄よ_なぜ毒餃子も毒粉ミルクも全て石家庄から出た事なのか?)という記事は削除されていた。削除情報のURLはこちらである。

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「メラミン粉ミルク事件を呼び込んだ「免検制度」」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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