近現代アートの最高峰と言われるニューヨーク近代美術館(MoMA)。
その「MoMAストア」で販売数量1位を5年続ける和製マフラーがある。
伝統的な編み物技術を生かして、見事に世界ブランドを立ち上げた。
群馬県桐生市。桐生駅前の住宅地で細道を折れると、「松井」の表札がかけられた民家に当たる。建造100年以上の木造住宅だ。扉の向こうからかすかに編み機の音が聞こえなければ、そこが「松井ニット技研」の編み物工場の入り口と知ることは難しい。

低速ラッセル編み機を前に、製造担当の松井智司社長(手前)と営業担当の松井敏夫専務(群馬県の本社で)(写真:的野 弘路)
ある時、2人の米国人がこの民家のような工場を訪れた。
玄関で靴を脱ぎ、畳敷きの客間に通される。座布団を勧められたが、正座はもちろん胡坐をかくことも彼らには難しい。結局、両足を投げ出すように伸ばしてちゃぶ台に向かった。
ちゃぶ台の上に、色鮮やかな縦じまのマフラーが置かれた。2人はため息をつくようにそのマフラーを眺め、手に取る。指先に柔らかな感触、豊かな収縮、そして大胆に原色を織り成したデザイン。
「素晴らしい」
2人はニューヨーク近代美術館(通称、MoMA)のデザイナーとバイヤー(仕入れ担当者)だった。世界中を飛び回り、優れたデザインの商品を発掘して仕入れるのが彼らの仕事だ。
サルバドール・ダリの「記憶の固執」、パブロ・ピカソの「アヴィニョンの娘たち」など20世紀の美術品を多く収蔵するほか、米IBMが開発したノートパソコン「ThinkPad 570」を展示するなど、MoMAは工業分野のデザインにも光を当てる美術館として知られる。近現代アートの最高峰と呼ばれるゆえんだ。

MoMAのサイトでも購入できる。画面には松井社長の名前も
「MoMAストア」は、MoMAの“目利き”が世界から集めた雑貨や衣類などを販売している。美術館の土産物店という範疇を超えて、もはやMoMAブランドによる「セレクトショップ」としての性格が強い。館内はもちろん日本でも東京都渋谷区に店舗を持つ。
MoMAの2人が訪れたのは10年前のこと。2人は松井ニット技研のマフラーを一目で気に入り、400本を注文。2000年から同社の商品がニューヨークの店舗に並んでいる。大胆な色使いが、MoMAを訪れるデザイン感度の高い顧客層の心をつかんで完売。以降、追加注文が続き、大ヒットとなった。
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