「衆院選「候補者A」かく闘わんとす」

衆院選「候補者A」かく闘わんとす

2009年2月20日(金)

第8話 老後の生活資金も息子のために

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 中川昭一財務・金融相の辞任は、支持率低迷が続く麻生太郎内閣にさらなる打撃となった。しかし、民主党も安心してはいられない。

 前回の記事で紹介したように、民主党新人候補・Bは、衆院選が目論見から外れて延び延びになっていることで、選挙資金は枯渇寸前になっている。

 公認を得た昨年10月に党本部から支給された500万円、年末に配られた追加支援の100万円とも、すでに使い切ってしまった。立候補を決めた1年半前、父親から借りた3000万円も残り少ない。

 「この4月末までに選挙があれば、手持ちの資金で何とかなりそうです。しかし、(衆院の任期が切れる)9月まで選挙が延びた場合、最低でもあと2000万円が必要になるでしょう」と言う。

 Bは昨年夏、来るべき選挙を見越し、事務所を広い場所に移すなど活動を拡大した。資金が苦しくなったからといって、今さら戦線を縮小するわけにもいかない。

もう1度、父親に頭を下げるしかない

 新人候補ゆえに、大金を工面できるような後援組織はない。Bの窮状を察し、資金の丸抱えを申し出る“支援者”もいるが、危ない誘いには乗れない。「結局は、もう1度、父親に頭を下げて借りることになると思います」。

 Bは地元から出馬するとはいえ、そこは戦後一貫して与党の牙城という難攻不落の地だ。民主党候補が大差で負け続けている選挙区なのだ。そんな場所で、野党、そして新人候補が立ち向かうのはリスクが高い。

 大手金融機関を辞めて、政治の道に進んだ決意は立派と言われるだろうが、落選すれば、ただの人。なけなしの蓄えは選挙資金で消えてしまっている。

 こうした状況をBの家族は、どう見ているのだろうか。気節外れの陽気となった2月14日、息子のために3000万円を提供したBの父親と会うことができた。

パーティ会場の片隅で檀上の息子を見つめる父親

パーティ会場の片隅で檀上の息子を見つめる父親

(手前、写真:筆者)

 その日、Bは地元のホールに支持者を集め、立食形式のパーティーを催していた。週末にもかかわらず参加者は200人をゆうに超え、会場は熱気で溢れた。参加者を気遣ってか、立食とはいえ食事はかなり豪勢だ。3000円という会費では、ほとんど利益が出なくて当然だろう。

 「これだけ応援してくださる方がいるのですから、大勢から少額の寄付を募ってもいいと思いますが、実際には、なかなか難しいようですね」

 会場の片隅で遠慮がちに佇みながら、Bの父親がポツンと呟いた。

老後のためにと、夫婦で40年間コツコツ貯めてきた

 父親は団塊の世代だ。理系の大学院を卒業後、大手メーカーに入社。それから同じ会社で40年近く、研究者として最前線を歩んできた。現在は役員を務める。七三に整えた髪形は、いかにも実直そうだが、同時にカジュアルな普段着のジャケットからセンスの良さも伝わってくる。

 「私自身やりたい仕事をやって生きてきましたから、息子に何かしてもらいたいということはありません。彼が“国を良くするためにがんばりたい”と言えば、親としては応援するだけです。仕方ない、よな?」

 そう言って、Bの母親と顔を見合わせた。

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著者プロフィール

出井 康博(いでい・やすひろ)

ジャーナリスト。
1965年岡山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社入社、「ザ・ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」の客員研究員を経て、独立。主な著書に『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『年金夫婦の海外移住』(小学館)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社)などがある。また日経ビジネス2002年9月30日号コラム「ひと烈伝」でヨシダソースで有名な米ヨシダグループの吉田準輝会長を寄稿、現在「フォーサイト」(新潮社)で「2010年の開国・外国人労働者の現実と未来」を長期連載中。最新刊に『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)がある。


このコラムについて

衆院選「候補者A」かく闘わんとす

ねじれ国会に、2代続けて首相の突然の辞任、そして総選挙。ざわつく国政に、テレビや新聞、そして週刊誌と政局関連の話題を取り上げているが、その当事者である代議士、そして代議士になろうとしている人たちは、いったい普段どんな生活をしているのかは意外と知られていない。本連載では、「地盤」「看板」そして「カバン」を持たない“フツー”の代議士や候補者の生活に焦点を当てることで、日本の政治はどのように作られるのか、そして現在の政治システムが抱える課題とは何かを浮かび上がらせていく。

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