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「小泉構造改革」は誤解の集積だった

自由主義研究家の江頭進・小樽商科大教授に聞く

  • 大豆生田 崇志

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2009年3月16日(月)

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 世界的な経済危機の一方で、国内では郵政民営化など小泉純一郎政権による構造改革の揺り戻しとされる政治的混乱も広がっている。そんな中、危機打開のヒントを経済学の古典に求めて学び直そうとする本が書店に数多く並ぶ。小泉構造改革を生んだ「新自由主義」と呼ばれる経済政策への論評も盛んだ。こうした政策の背後にあったとされるのは、オーストリア生まれの経済学者フリードリッヒ・ハイエクらの経済理論である。英国のマーガレット・サッチャー元首相や米国のロナルド・レーガン元大統領らの政策の精神的支柱とされる。だがハイエク研究の第一人者として知られる江頭進・小樽商科大学教授は、昨今のハイエク批判や肯定論のいずれもハイエクへの誤解に基づくと指摘。「経済学的」思考に縛られた改革への反省が生まれた背景と、新しい経済学の研究が示す社会の方向を語る。
(聞き手は大豆生田 崇志)

 

 ―― 世界的な経済危機によって、「新自由主義」の支柱としてのハイエクやミルトン・フリードマンに風当たりが強くなっているのをどう考えますか。

 江頭教授 まず今回の金融危機や、その後の大不況をしてハイエクやフリードマン、あるいはその流れの自由主義を批判するのは間違いでしょう。

「自由主義批判」は誤り

江頭進(えがしら・すすむ)氏

江頭進(えがしら・すすむ)氏
経済学博士、小樽商科大学教授

1966年生まれ、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。専門は経済学史、進化経済学。英サッチャー政権に大きな影響を与えたハイエクの研究で第一人者に数えられ、上智大学名誉教授の渡部昇一氏と論争したことでも知られる。著書に『F.A.ハイエクの研究』(日本経済評論社)、『20世紀のエコノミスト』(日本評論社)、『進化経済学のすすめ』(講談社現代新書)など。

 第1に、フリードマンはアジアの通貨危機の時に日本経済新聞のインタビューで「これこそが市場が正常に機能した結果である」と述べています。つまり今回の不況も、マーケットの正常な作用として起こるべくして起きたというわけです。そもそも米国のビル・クリントンやジョージ・W・ブッシュ政権の時代に、金利を巧みに操作してインフレーションをコントロールしたと言われるアラン・グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長の政策などはハイエク的に言えば唾棄すべきものだからです。

 さらにハイエクやフリードマンは、決して自由主義経済は常に右肩上がりのバラ色の世界などと言ったことはなく、時々起こる経済の収縮は、まさに行き過ぎた市場自体が持つ自浄作用であると考えていたわけです。ですから今回の景気後退をもって、ハイエクの自由主義が間違っていたという批判は、あまり意味を持つものではありません。

 どういうことかと言うと、ハイエクやフリードマンの考え方に従えば、景気は長期的にマーケットの力で回復すると主張していました。公共投資を主張した経済学者ジョン・メイナード・ケインズの政策のようなケインズ主義的、あるいは国家が経済に介入することが当たり前になっているような世界は、少なくとも短期的に問題が顕在化しなくても、いずれ大きな形で問題が現れることになります。

 特にハイエクが初期の『価格と生産』(1931年)という本の中で明らかにしたのは、国家による貨幣供給の操作は、実物経済における需要と供給を反映しないために、一時的に好況をもたらしても、長期的にはより大きな崩壊を引き起こすというものでした。このことは1983年の「ケインズの百年」という一般雑誌の論文でも同じことが述べられています。

 それに対してケインズは「長期的にはみんな死んでしまう」と有名な言葉を残しました。ケインズの一般理論は、大恐慌の際に使う期間限定の強力な処方箋という議論でした。そこで、長期的にはみんな死んでしまうと言ったわけです。もちろん、この言葉の中にはいろいろ問題があって、ハイエクはそれにものすごく嫌悪感を持っていたのです。でも実際に長い話だけでは、人は生きていけない。だからこそケインズは公共投資を主張したのです。

 ―― 今では多くの国の政府が金融機関の救済に乗り出したり、財政出動による不況打開策を打ち出したりしています。すると昨今の論評の多くは的外れだと。

 江頭教授 昨今のハイエクに対する論評には、実は私自身2つの理由からあまり興味を持っていません。1つは、ハイエクを支持する人もハイエクを批判する人も、一般の方々はあまりハイエクを読んでいないということ。読んでいても、せいぜいハイエク全集第1期の中の数冊でしょう。

 もう1つは、人の思想を歴史の流れで捉えるというのは、その人が本当は何を考えていたかというよりも、それぞれの時代でその主張がどう解釈されたかの方が実は大切なのではないかと思うからです。

 従って多種多様な解釈が出るのは仕方がないとも言えます。ハイエクの議論は、それぞれの時代で様々な解釈をされてきました。しかし、それぞれを間違っていると考えるのは、実はハイエク自身の考え方と矛盾してしまうからです。

 ―― それを踏まえて現状を考えると、全く異なった見方ができるということですね。

 江頭教授 ハイエクが1970年代末から80年代のサッチャー・レーガン改革の時に、看板として掲げられて復権したというのは確かでしょう。実際サッチャーがハイエクに会った時には「女子学生のように感動していた」と言われています。サッチャーもレーガンも、ハイエクに勲章を授与しているのは広く知られています。ただ、実際に彼らの政策がハイエク的かと言われると疑問符がつきます。

 私が英国で2年間研究していた際、サッチャー時代に政権の中枢で政策を書いていた経済学者の何人かと会いましたが、ほとんどが個別の分野で研究している新古典派経済学者や実証研究をしている人々で、彼らは特にハイエクの信奉者であったわけではありませんでした。サッチャー自身は、かなりハイエクの信奉者であったことは確かですが、サッチャーの場合、明確に対峙しなければならなかったのが当時の英国にあった社会主義的な精神や、英国病と言われる労働生産性の低下、強すぎる労働組合だったのです。

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