全国でも珍しい住民主導のマンション建て替えがまもなく始まる。東京・原宿の表参道沿いに立つコープオリンピアがそれだ。ゼネコンや不動産会社といった“開発のプロ”の力を借りずに、自分たちの手で建て替え計画を進めている。
一般的に、マンション建て替えでは所有者の利害関係が対立し、頓挫するケースが少なくない。だが、コープオリンピアでは、自らの資産価値を高めるという共通の目標を軸に、所有者の誰もが納得する形で、住民主導の建て替え計画を実現しようと奮闘している。
マンションの老朽化は資産価値の劣化につながる。耐震性を十分に満たしていないマンションを放置することは社会的にもマイナスだ。所有者の合意形成や費用負担など、建て替えに立ちはだかる壁は確かに高い。だが、コープオリンピアの取り組みを見れば、可能性がゼロではないことが分かるだろう。
今後、「建て替え適齢期」を迎えるマンションが増えることは間違いない。住民による住民のための自主建て替えは、社会問題化していくマンション建て替え問題に1つの解を与える。
マンション住民の挑戦が集大成を迎えようとしている。
JR原宿駅の目と鼻の先、表参道に面して立つコープオリンピア。総戸数は162戸、地上8階建ての高級マンションである。竣工は東京オリンピックの翌年の1965年。「オリンピア」の名前はオリンピックにちなんでつけられたものだ。それ以降、街の発展と軌を一にして、時を刻んできた。

そして44年目の春。コープオリンピアは建て替え計画を進めるか否か、最終的な決断を下す。4月19日に開催される臨時総会で管理組合は建て替え決議を提案。所有者の5分の4以上の賛成が取れれば、マンション建て替え組合を設立し、具体的な建て替え計画に着手していく。
目前に迫る「マンション建て替え時代」
今回の建て替え計画は「住民主導の自主建て替え」という点で関係者の注目を集めている。
老朽化によって建て替えに踏み切ったマンションは少なくないが、コープオリンピアの管理組合は、不動産会社やゼネコンなどの“プロ”を参画させずに、管理組合主導で建て替え計画を進めた。第三者の知恵を借りつつ、管理組合が建て替え計画を作る。そして、住民を説得し、決議を取る――。こうした事例はほとんどない。
国土交通省の資料によれば、築30年を超えるマンションは全国で約73万戸と、マンションストックの14%に達している。築30年超の物件は、2011年には約100万戸、2019年には約200万戸と急増していく。今後、建て替えに踏み切るマンションが続出する「マンション建て替え時代」が到来するのは間違いないだろう。
もっとも、建て替え決議に至るまでの道のりは平坦ではない。「管理組合が本気にならなければ無理でしょう」。コープオリンピア管理組合の石川良輔理事長が語るように、問われるのは管理組合の覚悟。所有者による自主建て替えを選択したコープオリンピアの取り組みは、これからの建て替え時代の1つの指針になるだろう。
それでは、コープオリンピアの苦闘を紐解こう。管理組合が建て替えを模索したのは5年前のことだった。
耐震補強を含めた修繕コストは26億円に
オリンピックの翌年に完成したというだけあって、外見上はそれほどでもないが、内側では老朽化が進んでいた。給排水管の漏水、外壁のひび割れ、天井の雨漏り――。こうした修繕のために、年間3000万円近いコストがかかっていた。
外壁の大規模修繕を行ったのは20年ほど前の話。2回目の大規模修繕に踏み切るかどうか。管理組合は検討を始めた。すると、衝撃的な事実が判明した。耐震補強工事を含めると、大規模修繕費用は26億円に達することが明らかになったのだ。
「大規模修繕をしても建物の質が向上するわけではない」と石川理事長が言うように、大規模修繕でできるのはあくまでも現状維持。現状を維持したところで、数千万円の維持コストがかかることは変わらない。それに、大規模修繕に合わせて耐震補強をしなければならないが、補強工事の間、住民は別のところに転居しなければならない。そういった事情を考慮すると、「建て替えがベスト」と管理組合は判断した。
もちろん、この判断はあくまでも管理組合の意見に過ぎない。建て替えるかどうかを最終的に決めるのは所有者だ。所有者の判断を仰ぐため、大規模修繕と建て替えにかかるそれぞれの費用、耐震リスクや維持管理コストなど、現状の問題点を説明した資料を作成し、建て替えの合意形成作りに乗り出した。
なぜ大規模修繕ではダメなのか。なぜ建て替えが必要なのか――。2007年6月以降、管理組合は所有者に説明していった。
建て替え推進決議では所有者の92%が賛成
そして、3カ月後の2007年9月、管理組合は建て替え計画の推進決議を取った。
建て替え推進決議は法律で定められた決議ではないが、建て替えを具体的に進めるうえでは行った方がいいと言われている。建て替え推進決議で大多数の賛成が取れなければ、建て替え決議を取ることはまず不可能。後々の建て替え決議を確実にするためにも、この段階で意見を固めた方がいい。
さらに、行政との折衝、不動産会社との保留床の交渉、現状の資産の価値算定など、詳細な事業計画を作るには外部の専門家の協力が必要になる。デベロッパーやゼネコンが決まっていない段階では、そのフィーは管理費から出さなければならない。専門家へのフィーに対する合意を取っておく必要を考えると、推進決議の際に合意形成する方が望ましい。
この時の推進決議では、所有者の92%が建て替え計画に賛成している。所有者も建て替えの必要性を認識していたということだ。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。










