威勢のいい声が響き渡っていた。
JR立川駅に隣接しているルミネ立川店。15時過ぎと買い物には少し早い時間だったが、地下1階の魚力の店舗に足を踏み入れると、買い物客でごった返していた。石川のマダイ、長崎のブリ、愛媛のマサバ、八丈島のキンメダイ、宮崎のキハダマグロ――。下りエスカレーターの目の前にある対面コーナーでは、築地直送の旬の鮮魚が丸のままや切り身で並んでいる。どれも鮮度の良さが自慢だ。
金融危機後、既存店売上高は平均102%
「ここに来ると、比較的いいお魚が手に入る。とびきり高くもないし、満足していますよ」。マグロの切り落としを手に取っていた初老の女性は手を止めるとこう言った。ほとんど毎日、この店に来るという。ワタ取りを頼む女性、アサリの山の前で思案している男性、色鮮やかな刺身に目移りしている客。20坪ほどの店舗は市場のような賑わいだ。
このルミネ立川店、日商500万円、年15億円の売り上げを誇る魚力の一番店である。この店の繁盛は魚力の今を象徴している。
魚力は全国に35店を展開している鮮魚の専門店。駅ビルや百貨店の食品売り場を中心に出店している日本一の魚屋だ。売上高は234億円、経常利益は12億円を数える(ともに2008年3月期)。鮮魚の小売店のほかに、海鮮居酒屋や寿司屋など10店の飲食店も運営している。創業は昭和5年。東京・立川で魚力商店という魚屋を開いたのが始まりである。
食品スーパー業界は金融危機の後も、販売額の急速な落ち込みに見舞われることなく、堅調に推移してきた。景気の悪化とともに、外食を控える消費者が増えたためだ。「内食」を背景に底堅い小売業界。その中でも、魚力の健闘は際立っている。
既存店売上高を見ると、燃料高に伴う一斉休漁の影響を受けた2008年7月こそ前年同月比95.4%と大幅に落ち込んだものの、8月以降は平均102%で推移している。食品スーパーなどが加盟している日本チェーンストア協会のデータによれば、会員企業の既存店売上高は8月以降の平均で約100%、水産品に限れば約96%である。それだけに、魚力の地力が浮き彫りになる。
「儲からない鮮魚」で儲かる仕組み
「鮮魚は儲からない」。ある小売企業の幹部がぼやくように、食品スーパーの多くは鮮魚売り場に苦労している。鮮魚は精肉と比べて、鮮度劣化が早い。刺身や切り身など店側で付加価値をつけなければならないため労働生産性も低い。海外での魚需要が増大しており、仕入れ価格も上昇傾向にある。
早い鮮度劣化、低い生産性、高い仕入れコスト。この三重苦を前に、鮮魚売り場を縮小している食品スーパーは少なくない。それにもかかわらず、魚力が堅調に業績を伸ばしているのはなぜか。その要因を探ると、“町の魚屋”をルーツに持つ魚力ならではのノウハウがあった。
その1つは、対面販売を核にした販売力である。
店中に響き渡る威勢のいい掛け声、棚に並べられた鮮魚や切り身、大きなまな板の上で包丁を振るう長靴姿の店員――。実際の店舗を見れば一目瞭然だが、魚力の各店舗はかつて町の商店街にあった魚屋さんそのもの。もちろん、雰囲気だけでなく、買い物客にフレンドリーなところも在りし日の魚屋さんを彷彿させる。
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