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米ドルが凋落するってホント?

中国の基軸通貨改革論、その奇妙な論理

  • 竹中 正治

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2009年4月30日(木)

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 中国人民銀行の周小川総裁の論文「国際通貨体制の改革」(2009年3月23日)が、その意図を含めて様々な波紋を起こしたことはご存じの方も多いであろう。

 昨年の秋以降、「米ドルはもはや基軸通貨ではない」とかフランスのニコラ・サルコジ大統領が口走ってきたが、あまり実体のない政治的な発言とおおむね受け止められていた。ところが、周総裁の演説は1歩進んで「SDRの利用の拡大」という国際金融制度に関する改革を提案している。

(注)SDRとは、Special Drawing Rightsの略で、国際通貨基金(IMF)の準備資産として創設された特別引き出し権のことである

 筆者には周演説は奇妙な主張に見える。周演説によると、特定国の通貨が国際的な準備通貨としての地位を独占するのは、その発行が特定国の経済的な事情に左右されるので理論的にも望ましくないし、歴史的にも稀有なことだという。

 しかしちょっと待てよ。1971年までのブレトンウッズ体制の下でならば、米国以外の各国は、その通貨相場をドルに固定することが国際的な約定となっていた。各国は対ドルでの固定相場を維持するために為替市場に介入し、外貨準備もドルで保有する必然性があった。そのうえで米国はドルと金の交換を公定レートで保証し、金ドル本位制が制度として成り立っていた。

 ところが、71年に米国がドルと金の交換保証を放棄しブレトンウッズ体制が終焉して、73年から主要国が変動相場制に移行してからは、外貨準備をドルで行う必然性も国際的な合意も何もない。

 中国政府と中国人民銀行は自らの意思で人民元の対ドル相場の上昇を抑えるために外為市場で莫大なドル買いをし、その結果2兆ドル近い外貨準備の多くを勝手にドルで保有しているに過ぎない。自らの意思でやっていることに対して、国際金融制度が問題だから改革すべきだというのは奇妙ではなかろうか。

ユーロ圏の国際ビジネス公用語はなぜ英語なのか

 この問題を考えるうえで、まず基軸通貨とは何か、なぜそれが存在するのかを考えてみよう。

 読者は言語と通貨に共通する1つの原理をご存じだろうか。例えば1999年に生まれた欧州統一通貨同盟国ユーロ圏では、国際ビジネスで使用される言語は、フランス語でもドイツ語でもなく英語である。ユーロ圏の誕生によって同地域内の経済活動の相互依存が深まったのに並行して、ますます英語の使用が一般化しているというのは一見パラドックスのようにも見える。

 しかしこれはパラドックスでもなんでもない。例えば6人の異なる言語を母国語にするグループ内で会話される言語のパターンは6角形の各頂点を結ぶ線の数となり、15通りもあり得る。しかし、それをすべて実現するためには各人が母国語に加えて5つの外国語を話さなくてはならない。これは事実上不可能だ。

 ところが6カ国語の中から1つだけ国際共通語に選んで皆がこれを喋ることにすれば、1つの外国語の習得だけでグループ全員の会話が成り立つ。1人だけ外国語を学ぶコストなしにほかの5人と会話できるという非対称な結果を伴うが、ともかく大変に効率的である。そのため多国籍的な会話のニーズが強まるほど、1つの共通言語に収斂する傾向が働く。

 これは「ネットワークの外部性」として知られていることであり、ほかの例では電子メールの利用者がたった1人では何のメリットも生じないが、電子メールを利用する人が増えるほど、利用者全員にとっての電子メールの利便性が増していくことと同じ原理である。

ネットワークの外部性のメリットが基軸通貨を必然化する

 ネットワークの外部性のメリットの強力さを、体現しているのが通貨(貨幣)である。現代の不換紙幣はただの紙切れなのに、皆がそれを商品の共通の交換手段(さらに価値尺度、価値保蔵の手段)として無条件で受け入れているため、貨幣経済が成り立っている。

 そして同じ原理が、諸通貨の中の通貨である基軸通貨を必然にする。というのは、異なった諸通貨にまたがった国際金融ビジネスや外国為替取引市場でも、ネットワークの外部性の原理が強く働いているからだ。先ほどの例で6人の会話を6種類の異なった通貨の交換取り引きに置き換えてみよう。

 6種類の通貨の交換パターンは15通りもある(8通貨なら28通り)。つまり15通りの為替相場が存在するわけである。私自身、銀行で長く外為関係のディーリング業務をしていたのでよく分かるのだが、15種もの為替相場を頭に入れて売買を処理していくのは気が狂いそうな作業となるだろう。

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