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悲鳴を上げる中国農業

ある教授が農村で目にした“悲惨な病理”

2009年5月14日(木)

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 中国農業が悲鳴を上げている。土と水の汚染、担い手である農民の疲弊は、国内消費量の20%に当たる野菜を中国からの輸入に頼る日本にとって他人事ではない。

 『農民も土も水も悲惨な中国農業』(朝日新書)を上梓した愛知大学の高橋五郎教授は徹底した農村調査で中国農業の病理を浮き彫りにしている。現地の農民と語り、土や水に触れる異色の学者に中国農業の現状を聞いた。


 ―― 残留農薬をはじめ、中国の農産物の危険性を指摘するものは少なくありませんが、その中でも『農民も土も水も悲惨な中国農業』(朝日新書)は、農村調査に基づく徹底したルポルタージュという点でかなり趣が異なります。中国農業の危険性に関するニュースを理解するためにも、先生が見てきたお話を伺えないでしょうか。

「おふくろの味」ではなく「袋の味」が幅を利かす日本

高橋五郎(たかはし・ごろう)氏
1948年新潟県生まれ。愛知大学法経学部卒、千葉大学大学院博士課程修了。現在は愛知大学国際中国学研究センター所長、同大現代中国学部教授を務める。専門は中国農村経済学、国際社会調査学。中国の農村事情や農民に詳しい
(写真:高木茂樹、以下同)

 高橋 初めに申し上げておくと、僕はいわゆる中国専門家ではありません。あくまでも農業の専門家、食料の専門家です。多くの中国専門家は中国そのものを研究していますが、私は中国という国を研究しているのではなく、中国で生産されている食料について、農作物を実際に作っている農民について、さらには、どういう農地を使って農業をしているか、どのような生産をしているか――といったことを研究しています。

 中国の農業を本格的に研究し始めたのは15年ほど前になりますが、それまでも様々な国の農業を研究してきました。日本はもちろんのこと、アジアや米国、ヨーロッパなどで農民に話を聞き、農業の実態を調査してきました。私の関心事は、日本で消費している食料がどのように作られているか、農民がどのように食料を作っているか、その暮らしぶりはどうなっているか、というところにある。

 ―― 中国の農業を研究しようとしたきっかけはどこにあったのでしょう。

 高橋 僕の出発点は日本の食生活があまりにひどいことから始まっているんです。現代の食生活は「おふくろの味」ではなく、加工食品を中心とした「袋の味」が幅を利かせています。ただ、食品の加工度が高くなればなるほど、原材料は見えにくくなり、食品の安全性にかかわるリスクは大きく広がる。

 こうした加工食品の多くは中国産の原料を使用し、中国で製造しています。じゃあ、中国に多くを依存している野菜や果物の生産現場はどのようになっているのか。食料自給率が落ち込んでいる今、中国農業の現場を見なければ、食生活の崩壊や自給率改善について何も言うことができない。そう考えたことがそもそもの動機でした。

地中の塩分が溶け出した地下水

 ―― 15年前というと、中国産の農作物が直接的にも(加工食品などで)間接的にも入ってきた時期でしょうか。

 高橋 そうです。この十数年の変化にはすさまじいものがあります。1997~98年を境に、中国は食糧不足の国から食料過剰の国に転換していきました。

 統計的にいいますと、98年頃に穀物の生産量が5億トンを超えました。世界の穀物生産量が約20億トン。穀物生産の25%が中国で作られるようになったわけです。それ以降、中国では食べ物が余り始め、それとともに、食品を輸出入する企業が介在し始めました。

 日本企業は現地に出向き種を持っていき、肥料や農薬のまき方、収穫の仕方など様々な技術移転をしました。そして、生産した農作物を日本に輸出したり、中国で加工した加工品を輸出したりするようになったわけですね。90年代の後半以降、特に2000年以降にこうした変化が加速していきました。

 ―― 15年前と今を比較すると、中国の農村や農業は変化しているのでしょうか。

 高橋 「よくない」という意味では変わらないのですが、「よくない」の質が変わってきている。

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「悲鳴を上げる中国農業」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師