──深澤真紀さんの連載「自分をすり減らさないための人間関係メンテナンス術」が同名の単行本になりました。この書籍は、以前からメンターと仰ぐ、東京大学大学院教授の上野千鶴子さんのベストセラー、『おひとりさまの老後』に多大な影響を受けているとのこと。そこで、前回に続き、ゲストの上野さんと「ひとりで生きていくこと」「人間関係をメンテナンスしていくこと」についてお話しいただきます。

――前回のお話で、お2人の20年来のつかず離れずの師弟関係がよく分かりました。深澤さんが書かれた「そこそこほどほどに機嫌よく」というキーワードは、上野さんも「素晴らしい」と高評価でした。
機嫌よく生きるには、逃げ方も大事
上野 他にも「自分探しをしない」という考え方もいいですね。自分というのは他人との関係の中にしかないのだから、探しても見つからないのは当たり前です。
フカサワも苦労したんだなと思うのは、「他人とどう関わっていくかを考えろ」と書いたすぐ後に、「あるいは、関わらないようにすることを考える」と書いていること。「逃げ方」についても触れているところがうまいですね。
逃げるのはひきょうでも何でもなくて、自分が機嫌よく生きるためには、何を避けるか、何から降りるか、何から逃げるかがすごく大事。なのに、「逃げるのか、ひきょう者!」という脅しにみんなが乗せられています。
私は女に対しては「逃げなさい」と書きますけれど、男にはあまり言いません。だから、あなたが日経ビジネスオンラインの男性読者に向けて「逃げていいんだよ」と書いたのは立派だと思う。優しいよね。

東京大学大学院教授。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授などを経て、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は女性学、ジェンダー研究。著書に『家父長制と資本制』『生き延びるための思想』(岩波書店)、『ナショナリズムとジェンダー』(青土社)、『老いる準備』(学陽書房)、『おひとりさまの老後』(法研)、『ニーズ中心の福祉社会へ』(中西正司と共編著、医学書院)など多数(写真:花井 智子、以下同)。
深澤 私は本当は優しくないんですけど(笑)、自分が年を取って、男女問わずに若い世代に対して「逃げていい」と言いたくなったんですね。ですから「人間関係メンテナンス術」の連載も若い男性の反応がよかったんです。
上野 それだと、ヒッキー(編注:「ひきこもり」のこと)にも「そのままでいいんだよ」というメッセージを送ったことになる?
深澤 「メンテナンス術」は、何もしなくてもいいし、頑張らなくていいとは言っていません。頑張るべきことは頑張って、それ以外のことをほどほどにやればいいと言っているんです。私自身が20年働いて、相当頑張ってきましたし(笑)。
上野 確かにそうだ。頑張らないと苦労はしないし、苦労するから初めて「逃げていい」という言葉が出てくるんですよね。「逃げていい」と無条件に言うと、出家遁世を勧める宗教家みたいになるけれど、あなたには頑張った実体験の裏づけがありますからね。
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