4月にメキシコで始まった新型インフルエンザの感染は、すさまじい勢いで世界中に広がった。より毒性の強い新型ウイルスが、近い将来に発生するリスクも指摘されている。もし社内に感染者が出たとしたら、最悪の場合、社員は出勤禁止、会社は営業停止に追い込まれかねない。
この時、どう対応すべきなのか。企業の経営者や危機管理担当者は、事業継続計画の見直しを迫られている。米格付け会社スタンダード&プアーズの佐柳恭威バイスプレジデントは、米本社で危機管理顧問を務め、新型インフルエンザなどのパンデミック(世界的大流行)対策に手を打ってきた。その経験を基に、企業が事業継続を実現するための考え方や手法、実践ノウハウなどを語ってもらった。
(聞き手は吉田 琢也=ITpro編集)
――4月に新型インフルエンザが発生してから現在までの状況をどう見るか。
佐柳 改めて分かったのは、新型インフルエンザの感染は人の力でストップできるものではない、ということだ。人間に免疫がないため、「航空機を介してすごいスピードで世界中に広がるだろう」と以前から予想されていたが、実際その通りになった。SARS(重症急性呼吸器症候群)の時と非常によく似ている。
今回の事態は“リハーサル”

スタンダード&プアーズ バイスプレジデント。米国本社の危機管理顧問を務め、新型インフルエンザなどの対策を企画し導入する。現在、世界各国のマネジメントの指導に当たる。
佐柳 ただ、空港での検疫による水際対策は、一定の効果があった。10日程度とは言え、海外から日本への感染者流入を食い止めることができたからだ。その間に、厚生労働省や各自治体を中心に、発熱相談センターや発熱外来など、受け入れ態勢を準備することができた。もし感染者がいきなり国内に入っていたら、感染の広がりはこの程度では済まなかったはずだ。
民間企業においても、海外出張者に自宅待機を要請したり、社員に感染防止キットを配布したり、といった対策を打つことができた。これまで全く準備ができていなかった企業も、パンデミック(世界的大流行)対策について真剣に考えるきっかけになった。
水際対策を徹底したことに加え、今回発生したウイルスがたまたま弱毒性だったこともあり、政府も企業も比較的冷静に、対策を考えたり準備したりする時間を得ることができた。このことは、ある意味で天から与えられたチャンスだと言える。今後、致死率の高い強毒性の新型インフルエンザが発生した場合に備え、リハーサルをすることができるのだから。
――本当の脅威に立ち向かうための準備ができる、と。

佐柳 その通りだ。メキシコでは新型インフルエンザの感染が蔓延した時に、企業の業務を止める措置が取られたが、ウイルスが弱毒性だったので、業務停止の期間は10〜15日程度で済んだ。これが仮に強毒性の新型インフルエンザであれば、2カ月程度の業務停止が必要で、しかも1年半くらいにわたって、そのような停滞期が数回訪れると言われている。
企業は、今回発生した新型インフルエンザに対して、何ができて、何ができていないのかを徹底的に反省することが必要だ。そのうえで、強毒性の新型インフルエンザが発生しても事業を継続できるようにするための準備に取り掛からなければならない。今回は弱毒性で助かったと考えるのではなく、現状の対策を見直すための時間的猶予が与えられたと考えるべきだ。
豚が強毒性インフルに感染
佐柳 強毒性の新型インフルエンザの発生は、ここにきて急速に現実味が増している。インドネシアでは最近、強毒性として知られるH5N1型鳥インフルエンザに感染した豚が複数の地域で発見された。このことは、今回のH1N1型豚インフルエンザと同じようなプロセスで、H5N1型鳥インフルエンザウイルスが人間のインフルエンザウイルスと豚の体内で交雑し、ヒト-ヒト感染の能力を獲得した強毒性のウイルスになる可能性が出てきたことを示している。
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