「ペットを看取るということ 天国の犬からの宿題」

ペットを看取るということ 天国の犬からの宿題

2009年6月17日(水)

第5話:犬は家族? それとも? ペットに10万円かける女たち

1/2ページ

印刷ページ

 (前回から読む)

 いくつになっても、自己分析は難しいものである。しかし「自分取り扱い説明書」と問われて最初に浮かぶ答えは、「楽天家」である。先のことはできるだけ思い煩わず、直感に従って行動できるように努力をしているつもりである。

 ところがピピと出会った1997年7月以来、私は先の不安を感じるようになっていた。前回書いたように、ピピが当初より病気がちだったということも一因だった。しかし私が何よりも恐れたことは、「喪失」だった。

 ピピと一緒に暮らすようになってから、病める時も健やかな時も、そのかわいい姿にうっとりし、生活はぬくもりに満ち、これまで味わったことのない穏やかな幸福感は毎日褪せることがないばかりか、日々に強くなっていった。

 そしてそれに比例して、私の中のピピを喪失することへの、理を超えた恐怖心は増大した。

 そこで私がしたことは、まだ生後6カ月であるにもかかわらず、「ペットロス・カウンセラー」の情報収集をすることだった。1998年当時、まだ耳新しかったその言葉は、ペットを失ってうつ状態になった人を助けるための心理療法と考えられていた。

 私はペットとの突然の別れ、そして自身が立ち直れずに仕事ができなくなることを心底恐れていたのだった。「その時」に備えて、多くの記事の切り抜きを集めてファイルし、私はやっと安心できたのである。

 しかし、実際直面した出来事は、それらの準備が手助けとなってコントロールできるようなものでは、到底なかった。昨年12月27日にピピに旅立たれて以来、私はファイルした切り抜きを見ることさえできないほど、打ちのめされていたのだった。

 人はなぜ、それほどまでにコンパニオン・アニマルに深い愛着(アタッチメント)を持つのだろうか。それとも私だけが、小さな命に固執しすぎているのだろうか。

 その回答の1つが、この数字の向こう側に見えるのかもしれない。

 2007年の厚生労働省の調査によると全国の登録犬数は約674万頭であり、実際はその倍以上の犬が、人と一緒に暮らしていると推定される。その数は15歳未満の子供の数1860万人を優に超えるという。家庭で暮らしている猫の数を入れれば、さらに数は増える。

 かつて庭で「番犬として飼っていた」時代とは異なり、多くの人が「家族の一員」として、犬と生活を共にしているのである。

 例えば子供に「家族の絵を描いてみて」と言うと、犬を描いてくる子がいるのも、自然な時代なのである。

 番犬、愛玩犬、ペットから伴侶犬(コンパニオン・ドッグ)へと呼び名は変わり、さらに生活を重ねるとともに、オーナー(飼い主)の感情や考えまで汲み取れるようになる知的伴侶犬として、かけがえのない相棒だと実感する人が多く存在しているのである。

 その一方で、教科書検定を巡る中で「犬=家族」であることに異論を唱える発言があることを知った。

 「おじいちゃん、おばあちゃんと一緒の写真。こっちは犬と子どもと一緒の写真。両方家族ですって。おばあちゃんは犬と同じか。こんなふざけた話がどこにあるんだとやりあった」という麻生首相の発言が物議を醸した。

 これを受けて文科省の銭谷事務次官は、首相が指摘した教科書の記述変更は、中学校の技術・家庭の教科書から「Aさんの家族(母、父、弟、犬」との記述が削除された2004年の検定などと思われると指摘し、それは検定委員会の意見に従ったものであると、政治的介入を否定した。しかし、この記事を読んで違和感を覚えたのは愛犬家だけではないであろう。

 さらに興味深いニュースがある。5月13日の愛犬の日(1994年にジャパンケネルクラブが制定)に向けて、パナソニックがペット(犬、猫、ハムスターなど)と暮らす300人を対象にしたインターネット意識調査である(報告書はこちら)。

 「ペットの存在とは何?」の質問に7割以上が「家族の一員、兄弟・子供のような存在」と回答。他に「癒し・安らぎ」「恋人のような存在」「運命共同体」「自分の命に代わるもの」というように、人間の家族以上の愛を抱いている人も多くいた。

次ページ以降は「日経ビジネスオンライン会員」(無料)の方および「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみお読みいただけます。ご登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。






Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント9 件(コメントを読む)
トラックバック

著者プロフィール

津田 和壽澄(つだ・かずみ)

きものライフスタイル・コンサルタント、ソリテュード研究家。青山学院大学文学部卒業後、住友商事、デュポンジャパン、メリルリンチ証券、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツなど国内外でのビジネス経験を経て、1989年にコンサルティング会社を設立。「ひとりの時間」から生まれる効用を「ソリテュード(積極的孤独)」と名づけ、執筆、講演、テレビやラジオを通じてQOL(生活の質)を高める生き方として提唱する。2001年、ニューポート大学大学院人間行動学研究科修士課程修了。また2003年よりソリテュードというライフ・スタイルの1つとして「きもので犬の散歩」をコンセプトに365日の着物生活を実践。ウェブサイト「Kazumi流きもの」などで情報を発信する。主な著書に『孤独力―人間を成熟させる「ひとりの時間」』(講談社)、『もう、「ひとり」は怖くない』『「着たい!」私のふだんきもの』(いずれも祥伝社)など。


このコラムについて

ペットを看取るということ 天国の犬からの宿題

厚生労働省の調査によれば、日本国内の登録犬の数は2007年で674万頭にも上る。実際の飼い犬の数はその倍になるとも言われるが、これは15歳未満の子供の数1860万人を優に超えている。動物と飼い主との間に築かれる関係は、時に人間同士と同様に、またはそれ以上に強く深い。愛犬や愛猫の死―ペットロス―が引き起こす精神疾患や自殺も社会問題になっている。既に彼らは「飼うペット」ではなく、家族の一員と言えるかもしれない。このため、海外では「コンパニオン・アニマル」とも呼ぶ。このコラムでは、10年以上一緒に過ごした愛犬を失った著者の体験を通して、ペットと一緒に暮らすこと、その介護と死に関して、飼い主たちがぶつかる疑問や問題について考えていく。

⇒ 記事一覧

ページトップへ日経ビジネスオンライントップページへ

記事を探す

  • 全文検索
  • コラム名で探す
  • 記事タイトルで探す

編集部よりお知らせ

日経ビジネスからのご案内