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「法務大臣の指揮権」を巡る思考停止からの脱却を

造船疑獄指揮権発動は「検察の威信」を守るための策略だった

  • 郷原 信郎

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2009年6月17日(水)

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 日本は、いつから、法律に明記されている行政庁の権限について議論することすらタブー視する国になってしまったのだろうか。

 6月10日に公表された「政治資金問題を巡る政治・検察・報道のあり方に関する第三者委員会」(政治資金問題第三者委員会)の報告書に対して、新聞、テレビの多くは、検察当局や報道機関の批判に重点を置き、小沢一郎氏の説明不足を追及していないなどと批判している。とりわけ、報告書中で、法務大臣の検事総長に対する指揮権発動に関して言及したことに対しては、朝日新聞以外の各紙の批判は「非難」のレベルにまで達している。

報告書での「指揮権発動」言及に対するマスコミの「非難」

 例えば、読売新聞は、「検察・報道批判は的外れだ」と題する6月11日の社説で、報告書の「法相の捜査中止の指揮権発動を求めるかのような表現」を厳しく批判した後、同日夕刊の「よみうり寸評」でも、戦後ただ一度の指揮権発動で涙を浮かべる検事正や無念の思いに暮れる検事たちの情景を描いた後、「犬養健法相が造船疑獄の捜査に関し、検事総長に対し指揮権を発動した。これで佐藤栄作自由党幹事長への捜査はストップ。法相は辞任した。以来、発動はない。ずっと抑制の姿勢が貫かれてきた。半世紀以上も前の古い話を民主党の第三者委員会の報告で思い出した。『西松事件』について何と『法相が政治的配慮から指揮権を発動する選択肢もあり得た』とある。検察・報道批判の色が濃く、『第三者』の報告というよりは鳩山、小沢両氏の代弁のようだ」などと重ねて詳細に批判する、という念の入りようだ。

 しかし、このような批判は、報告書が言うところの「政治的配慮」の趣旨を読み違えているだけでなく、検察庁法が「法務大臣の指揮権」を規定していることの意義、検察の権限行使に対する民主的コントロールの手段としての位置づけを正しく理解していない。

 第三者委員会のメンバーであった者の1人として、このようなマスコミからの「非難」に対して個人的立場から反論を行うこととしたい。

渡邉文幸著『指揮権発動』が解き明かした戦後検察史の核心

 「法務大臣の指揮権」をタブー視する考え方は、造船疑獄事件での犬養法務大臣の指揮権発動という「政治の圧力」が「検察の正義」の行く手を阻んだ、という歴史認識に基づくものだが、実は、そこには重大な誤謬がある。元共同通信記者の渡邉文幸氏の著書『指揮権発動』では、当時、法務省刑事局長だった井本台吉氏が事件から40年経って初めて語った証言などを基に、捜査に行き詰まった検察側が「名誉ある撤退」をするために、自ら吉田茂首相に指揮権発動を持ちかけた「策略」だったことが明らかにされている。まさに、戦後検察史の核心を突く迫真のノンフィクションだ。

 そして、2006年6月14日付朝日新聞夕刊の「(ニッポン人脈記)秋霜烈日のバッジ」(村山治編集委員)では、上記の井本氏の証言に加えて、当時東京地検特捜副部長だった神谷尚男氏の「あのままでは佐藤を起訴するだけの証拠がなかった」との証言、当時、一線の検事として捜査に加わっていた栗本六郎氏の「捜査は行き詰まっていた。拘置所で指揮権発動を聞き、事件がストップして正直ほっとした」という証言のほか、「日本の検察には『正義の特捜』対『巨悪の政界』という単純化された構図による呪縛と幻想がある」との渡邉氏の指摘も紹介されている。

 造船疑獄における指揮権発動が検察側の策略によるものだったことは、ほとんど疑う余地のないものと言ってもよいであろう。

 同書に記載されている造船疑獄での佐藤栄作自由党幹事長への容疑事実を見る限り、検察の捜査が行き詰まっていたというより、最初から、この事件は、ほとんど無理筋だったように思える。容疑事実は、海運・造船に対する助成法案に絡んで、海運業者から自由党に政治献金が行われたことについて、当時の佐藤自由党幹事長が海運会社から請託(具体的に依頼すること)を受けて、第三者である自由党に賄賂を供与させたというものだが、そのような依頼があったとしても、与党の幹事長に与党としての法案のとりまとめを依頼したということであって、国会議員の職務に関する請託とは言えないであろう。

 もし、このような事実が第三者供賄になるとすれば、具体的な法案実現を目指す政党への政治献金はすべて賄賂ということになる。そして、贈賄側とされていた飯野海運の当初の逮捕事実は、このような政治献金の資金捻出のために造船会社からリベートを受け取ったことが商法の特別背任とされていたものだったが、この事実については、後日、一審で無罪判決が出て確定しており、それを含め、この造船疑獄で起訴された事実の多くが無罪となっている。

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