「時事深層」

改正薬事法、犠牲にされた1億3000万人の利便性

10年前の革新派、守旧派に

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2009年6月30日(火)

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 コンビニエンスストアなどでの医薬品の販売を認める一方、インターネットでの販売を規制する改正薬事法が施行されてから約2週間経った6月中旬、新横浜のあるビルを訪ねた記者たちを前にその男は満面の笑みを浮かべていた。

 「もう、感無量ですよ」

 こう語る男の名は、宗像守。日本チェーンドラッグストア協会の事務総長である。薬のネット販売を巡り多くの議論と混乱を巻き起こした薬事法の改正を素直に喜ぶこの人物こそ、今回の法改正を主導した陰の立役者と言える。

 同時に施行された省令も含め、今回の法改正のポイントは2つある。

 1点目は薬の販売が薬局以外に広がったことだ。一般用医薬品を副作用などのリスクに応じて「第1類」から「第3類」の3種類に分けたうえで、リスクが比較的小さい「第2類」と「第3類」の薬については、新設された「登録販売者」の資格を持つ者がいれば、コンビニなどでも販売できるようになった。

裁量1つでネット販売不可

 その一方で、すべての一般用医薬品について「対面販売の原則」を設けた。この対面販売が大きな議論を巻き起こした。インターネット通販などで販売できる薬が大幅に減り、一般的な風邪薬や頭痛薬まで買えなくなることから、「消費者の利便性が損なわれる」と通販業者などが猛反発。三木谷浩史率いる楽天は自社のウェブサイトを拠点に猛烈な抗議を展開し、ケンコーコムは業績を下方修正するまでに追い込まれ、国を提訴する騒ぎになった。

 彼らが訴える根拠に、「対面販売の原則」が省令によって定められている点がある。「国会で決められた法律と違い、厚生労働省の裁量1つで決まる省令には恣意性がつきまとうなど問題が多い。我々のビジネスが違法とされるいわれはない」との主張だ。

 実は10年以上前に、同様の理由で旧厚生省に立ち向かったのが、冒頭の宗像だった。

改正前と改正後の医薬品販売の流れ

 当時、宗像はドラッグストアをはじめとする小売業のコンサルタントをしていた。高齢化に伴う医療費の高騰を抑えるべく、これまで医師の処方箋がなければ売れなかった薬のうち、胃潰瘍などの治療に用いられるものがドラッグストアで市販できるようになった時期だ。ただ、厚生省が調査してみると、薬剤師でない一般の店員が販売している店がほとんど。同省は1998年、薬剤師を常駐させて、きちんと顧客に情報提供したうえで販売するよう求める局長通知を出した。

 しかし、コストや薬剤師不足を考えるとドラッグストア各社が、各店舗に薬剤師を揃えることは簡単ではなかった。宗像は「通知は法律に基づいていないから何の拘束力もない。ただの寝言のようなものだ」と持論を展開。「薬事法には薬剤師が実地に管理すべきと書いてある」と主張する厚生省と議論の応酬になった。

組織の力で役所に対抗

 この時の論争は結局うやむやのまま終わったが、いずれ役所が規制を強化してくる可能性は残る。だが、いくら理論武装しても個人の力には限界がある。団体で交渉できるようにならなければ勝ち目はない。こう見た宗像はドラッグストアの業界団体を設立しようと奔走した。

 ドラッグストアは個人経営の薬局などが大きくなりチェーン化したケースがほとんど。今でも個性の強い創業オーナーが経営している企業が多い。それだけに日々しのぎを削るライバルなどと共同歩調を取ろうと考える経営者はまれだった。

 だが、この状況を放置していてはいずれ牙をむく厚生省に対抗できない。

 業界最大手のマツモトキヨシの松本南海雄副社長(当時)の元へ、業界団体トップへの就任を要請すべく半年近く通い詰め、ようやく口説き落とした。各社の結束は「途中で何度も瓦解しそうになった」が宗像は99年、日本チェーンドラッグストア協会の設立にこぎ着けた。

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池田 信太朗(いけだ・しんたろう)

日経ビジネス記者。

小平 和良(こだいら・かずよし)

日経ビジネス記者。



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