「「進化政治学」で選挙が見える」

「至近」だけでは物事を見誤る

【補講】進化政治学の可能性

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2009年7月13日(月)

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 進化政治学という立場から、間もなく実施されるであろう衆議院選挙を話題の中心に据えて、政治活動や投票行動を解説してきました。政治制度や派閥力学などから現状を分析する政治学とは、全く異なるアプローチです。

 方法論として言えば、「至近メカニズム」と「根源的メカニズム」ということになります。今、我々の行動に関する仮説は、「何があるから、こうなる」という直接的な因果関係を基に生み出す至近メカニズムが主流です。しかし、それは本来であれば、進化過程との整合性によって裏づけされなければならないのです。この根源的メカニズムからの研究が、政治学ではほとんど行われていませんでした。

 環境が目まぐるしく変化するのに比べて、人間の進化は速度が非常に遅い。生物学者の間では、氷河期が終わった約1万年前の遺伝子と、現在の遺伝子がほぼ同じであるとのコンセンサスがあります。この事実は、狩猟採集時代に最適に進化してきたヒトの遺伝子が、18世紀の産業革命以降に急激に工業化が進んだ経済や社会、政治のシステムで、適応齟齬を来している可能性を意味しています。

 この点を解明してきちんと手立てを講じれば、政治をもっとよくできるかもしれない。私たち、進化政治学者はこんな希望を持っています。

戦争、少子高齢化などの問題解決も

 ここで、進化政治学をおさらいしておきましょう。ポイントは次の3つで、仮説の構築や検証における前提となっています。

(1)ヒトの遺伝子は突然変異を通じた進化によってもたらされたもので、このような遺伝子は政治分野の意思決定過程において影響を与えている

(2)限られた資源である食料と異性を獲得することは人間の根源的欲求であり、その欲求にかかわる問題一つひとつを解決するために自然選択と性選択を通じて脳が進化した

(3)現在のヒトの遺伝子は、少なくとも最後の氷河期を経験した遺伝子とほとんど変わっていないという事実に基づき、現在の政治現象は、狩猟採集時代の行動形態から説明されなければならない

 まず(1)が意味するのは、ヒトの進化過程と先天的変数の重要性です。進化政治学者は、このような根源的な遺伝子レベルの変数が政治の分野における意思決定に影響を与えているというスタンスを取っています。

 政治学以外の分野では先天か後天かという問題は重要な視座として研究が行われてきました。ところが、政治学ではこれまで、後天的変数、例えば教育程度、経済力、社会的地位などに重きを置かれていました。実際は、それだけではなく、第2講や第5講でお話ししたように、遺伝子レベルの先天的要因、例えばテストステロンといったホルモン、あるいはドーパミンなどの神経伝達物質の多寡といった内分泌学的変数が政治的意思決定に影響を与えるものと考えています。

 そして(2)では、脳は、生存を脅かす問題解決のために進化が生じたという点を説いています。脳は政治問題すべてを解決できるほどには万能ではなく、個別の問題に対して試行錯誤しつつ「最大化」というより「満足化」のプロセスを踏まざるを得ないということ、また、脳の進化を知るためには、人類が直面した問題は何だったのか、問題を解決するためにどのようなメカニズムが作動しているのかなどの理解が必要であるとしています。

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著者プロフィール

森川 友義(もりかわ・とものり)氏

早稲田大学国際教養学部教授、政治学博士。1955年12月、群馬県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、ボストン大学政治学部修士号、オレゴン大学政治学部博士号取得。国連開発計画(UNDP)、国際農業開発基金(IFAD)などの国連専門機関に勤務。米ルイス・クラーク大学助教授、米オレゴン大学客員准教授を経て、現職に至る。主な著書に『60年安保 6人の証言』(同時代社)など。また、『若者は、選挙に行かないせいで、4000万円も損してる!? 35歳くらいまでの政治リテラシー養成講座』、『依存大国ニッポン 政治リテラシー養成講座2』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)を7月に同時出版する予定。



このコラムについて

「進化政治学」で選挙が見える

日本の政治が大きく変わるかもしれない。今年の衆院選の結果では、政権が自民党から、いよいよ民主党へ移る可能性がある。また、米国のバラク・オバマ大統領が登場したように、政治家への期待も高まっている。こうした時代だからこそ、派閥などの政治力学、制度などの組織論といった従来の枠組みとは違う視点で、政治や選挙を考える必要がある。21世紀に入って注目を集めているのが、政治研究の新手法「進化政治学」だ。人類の進化論と政治を重ね合わせて考察していく。

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