「衆院選「候補者A」かく闘わんとす」

特別編-1 公選法が生む1票の値段

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2009年8月21日(金)

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 8月18日、総選挙が公示され、12日間の選挙戦が始まった。

 その当日の午前9時半、3期目の当選を目指す民主党前衆院議員・Aの事務所では、数人のスタッフとボランティアが黙々と机に向かっていた。選挙管理委員会から届いたばかりの「証紙」を、選挙期間中に配布するビラに貼っていくのだ。

 候補者1人に配られる証紙は、個人ビラ用の7万枚と政党ビラ用の4万枚を併せて11万枚と決まっている。証紙のないビラを配れば、選挙違反とみなされる。選挙運動を始めるためには、証紙を貼る作業は欠かせない。

手作業しかできない

配布された「証紙」 (撮影:著者)
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 「何だか、受刑者になった気分だな」
 顔じゅう汗まみれで作業を続けていた60代の男性ボランティアが、軽口を叩いた。他のボランティアたちが次々と続く。

「全国の選挙事務所で今、同じ作業をやっていると思うと、何だか変な気分ですね」
「どうせなら、最初から印刷してくれれば手間が省けるのに」

 縦横1センチほどの証紙は、長方形の紙に500枚ずつ1組で配られる。ラベル貼り機などは使えず、すべて手作業に頼るしかない。結局、2000枚の証紙を貼り終えるのに1時間近くかかってしまった。

 公示日の朝、選挙事務所は多忙を極める。選挙区によっては2000カ所を超す公営掲示板に、ボランティアが手分けして選挙ポスターを貼っていく。加えて、公営掲示板以外の場所に貼ってあるポスターも、証紙を付けて交換しなければならない。すべては公職選挙法に則ってのことだ。

選挙費用=有権者×15円

 公選法は、ビラやポスターに限らず、選挙期間中に送付できる推薦ハガキの枚数、街頭での選挙運動に参加できるスタッフの数まで、あらゆる活動を細かく規制する。

 選挙運動に使える費用もそうだ。選挙区の有権者数に15円を掛け、1910万円を足した金額が上限となる。有権者40万人の選挙区の場合、2400万円程度である。衆院選の選挙期間は12日に過ぎない。印刷物に加え、スタッフの人件費にも公選法の縛りがあるため、2000万円以上の費用を使うような候補者は現実には少数だ。

 ただし、公選法が目を光らせるのは、あくまで選挙期間に限ってのこと。候補者による有権者宅への個別訪問なども、選挙期間以外は「後援会活動」という名目で黙認されている。

 この連載でも見てきたように、選挙戦は事実上、公示日のずっと前から始まっている。そうした事前の活動こそ、候補者に多額の資金が必要となる原因なのだ。その点でも、公選法の意味は乏しい。では、なぜ候補者は選挙に向けた事前活動に金をかけるのか。

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著者プロフィール

出井 康博(いでい・やすひろ)

ジャーナリスト。
1965年岡山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社入社、「ザ・ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」の客員研究員を経て、独立。主な著書に『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『年金夫婦の海外移住』(小学館)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社)などがある。また日経ビジネス2002年9月30日号コラム「ひと烈伝」でヨシダソースで有名な米ヨシダグループの吉田準輝会長を寄稿、現在「フォーサイト」(新潮社)で「2010年の開国・外国人労働者の現実と未来」を長期連載中。最新刊に『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)がある。



このコラムについて

衆院選「候補者A」かく闘わんとす

ねじれ国会に、2代続けて首相の突然の辞任、そして総選挙。ざわつく国政に、テレビや新聞、そして週刊誌と政局関連の話題を取り上げているが、その当事者である代議士、そして代議士になろうとしている人たちは、いったい普段どんな生活をしているのかは意外と知られていない。本連載では、「地盤」「看板」そして「カバン」を持たない“フツー”の代議士や候補者の生活に焦点を当てることで、日本の政治はどのように作られるのか、そして現在の政治システムが抱える課題とは何かを浮かび上がらせていく。

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