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中国農村の内需とプライドに点火した「家電下郷」政策

「農民に戻りたい」逆流が始まった

2009年9月2日(水)

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 中国は今「家電下郷」に沸いているのは、ご存じの通りだ。
 もともとは農民と都市住民の所得格差を緩和し、社会不安を軽減させようとして始まった。農村を中心とした低所得層の家電購買欲を高めるために「家電を購入すれば政府がその価格の13%をキャッシュバックしてあげますよ。さあ、今のうちに早く買いなさい」という国策だ。

 中国語では「城」は都市のことを指し、「郷」は故郷の意味もあるが、この場合は田舎とか農村のことを指す。日本語の上京に近い「田舎から都市に入ること」は「進城」で、その逆方向の田舎に下ることを「下郷」という。

 したがって「家電下郷」は「家電が田舎にやってきた」という意味である。

 「家電下郷」が政府の正式な号令として発令されたのは2009年4月16日。【財建〔2009〕155号】文書として、財政部、商務部、工業と信息(情報)化部、国家発展改革委員会、中宣部、農業部、環境保護部、供銷総社、税務総局、質検総局等の中央行政省庁に対して発布した。まさしく「国家総動員」である。

 世界を襲う金融危機を乗り越えるために、中国もまた4兆元(55兆円前後)の財政出動を決意して内需を高めようとしていた。「家電下郷」が成功すれば、金融危機だけでなく、農村と都市の格差対策としても有効だ。中国の経済成長は主として安価な労働力を利用した輸出に頼ってきた。しかし金融危機で中国以外の国の景気が悪化すれば、輸出は落ちる。輸出が落ちれば中国の経済発展は突然頓挫する。それを救うのは内需だ。他国の経済が悪化しても中国国内で安定して成長し、しかもそれが中国のネックであるところの貧富の格差を埋めてくれる。ならば、この財政出動は、大いに「家電下郷」に注ごうではないか。

 中央政府は、そう号令をかけた。

 しかし、実際にはそこまでしても、農民たちは最初のうちは動かなかった。

「キャッシュバックをしてくれるなんて言ったって、どうせまた騙されるのが落ちだ」

 そう思っている農民が多かったのだ。

政府、わざわざキャッシュバック用の口座まで作らせる

 そこで政府は「一卡通(イーカートン)」という政策を実施した。

 これは農家の家庭に一つずつ口座を作らせ、キャッシュバックする金は全てその口座の中に政府から直接送金する、という方法である。

 家電販売店までの距離が長すぎて、行くまでに数時間もかかれば、ガソリン代だけでかなりの金額を消費してしまう。それも、活気づかない理由の一つだった。これに対しては、村々の近くに「家電下郷站」(站はステーション)という出店を設置させて、家電商品をそのステーションに集め、短時間で購入できるよう、便宜を図った。

 この二つの施策により、「家電下郷」は一気に活気づいた。

 中央電視台(CCTV)などでも、毎日のように家電を買いあさる農民の熱気が映し出されて買い気をあおった。「一卡通」で、遅くとも1週間以内に通帳に購入金額の13%に相当する現金が振り込まれる、という安心感、そしてステーションが出来上がったことによって購入に行く時間が短縮されたことの便利さを伝え続けた。

 この優遇策は、農民にとってただの家電購入補助策以上の意味を持つ。

 「家電下郷」は、「農業戸口」を持った人に対してのみ適用される。非農業戸籍、すなわち都市戸籍の者にはない優遇策なのである。

 それが、新中国誕生以来、まるで二等国民のように扱われ、「平等な人民」としての位置づけをされてこなかった農民たちの自尊心をくすぐる。自分が農民であることに対する誇りが生まれてきたのである。

 これはすごい力を持つ。家電が増えたとか、内需が成長したといった経済効果とは比べものにもならない力を、この「誇り」と「自尊心」は生み出すことになるだろう。

コメント7件コメント/レビュー

いつもながら、遠藤先生の深みと切れ味と最新の情報を盛り込んだ中国レビュー、楽しみです。遠藤先生の記事がないと、日経ビジネスオンラインを開ける頻度がぐっと下がってしまいます。ぜひとも連載を続けていただければ、、。またこの内容を出版していただければと思います。(2009/09/02)

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「中国農村の内需とプライドに点火した「家電下郷」政策」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

いつもながら、遠藤先生の深みと切れ味と最新の情報を盛り込んだ中国レビュー、楽しみです。遠藤先生の記事がないと、日経ビジネスオンラインを開ける頻度がぐっと下がってしまいます。ぜひとも連載を続けていただければ、、。またこの内容を出版していただければと思います。(2009/09/02)

わたしは一年のうち半分は北京で生活しているが、「農民が社会制度上優位に立ったというのは、中国の歴史上、ほんの短期間の事件や運動を除けば、実に画期的な出来事である。」の中で「農民が社会制度上優位」と言うのは、ちょっと違うのではと感じる。中国人はご存知のように、漢民族同士であっても「差別意識」が強い。「農民に心理的な優位を与えて、飴をちょっとやれば、やつら馬鹿だからすぐ満足させられる」そんな意識がかなり働いていると住んでいて感じる。一時的な対処には「共産党」はとても上手である。表面的に現れる政策や現象だけで、中国を論ずるのは、こと中国に関してはあたらない。中国人は「他人よりも自分が」という意識、おいしい所を渡り歩く意識が根強い。「物さえ与えさえすれば、やつら農工民は何とかなる」という意識は、都市市民はもちろんのこと、共産党幹部も、おいしい目に在りつけている階級の連中は、みなそう考えているし、現実に多くの長い知り合いの漢民族の知人も言っている。以前に「外貨券」を無くしたときの要因も、中国経済の為替上で、「人民元」のみで為替管理が可能で、実質的に「第二の為替障壁」的な経済意味あいのある、「農民戸口」と「都市戸口」での「賃金差と金の移動の制御効果」が期待できるからだった。小都市で「居民戸口」化が進められるのも、この程度ならばこの制御効果が維持でき、さほど、中国のマクロ経済的らは影響を及ぼさないからだ。「第二の為替障壁」と言うべき、「二つの戸口制度」は為替に関するマクロ経済をぬきで考えられない。ある意味では逆に、「農民戸口」が増えた方が、為替管理的な感覚では、国としては好都合と考え、それへのしたたかな策略もみてとれる。(2009/09/02)

農業税の廃止による小作農と地主の格差が明らか発生しています。華東デルタの大都市近郊農家は富農と化し、ゴミ一つ無い整備された農道(!)が蟹養殖池の間を縫うように走り、沿道には瀟洒な2~3階建ての一軒屋が立ち並んでいます。その軒先には新車の自家用車、屋根には衛星放送受信用のパラボラアンテナが取り付けられ、近隣の都市は彼等新富農の買い物姿が溢れています。一方、その側の農地ではビニールハウスにTVアンテナが立ち、土間床で流浪の出稼ぎ小作人達が暮らしています。富農の子弟は学費の高い高校から進学した重点大学に通い、上海のIT業界にも、実家は農家という新卒が増えています。辛亥革命、共和国成立によって消滅した筈の地主階級が中国の成長によって復活するとは、何とも歴史の皮肉を感じます。やがて、昔日の農協ツアーを中国版で世界が目にする日も近いのではないでしょうか。(2009/09/02)

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ジェニー・ダロック 米ピーター・F・ドラッカー伊藤雅俊経営大学院学長