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カバの生き方こそ我が社の“社訓”

「カバを大切にしなくてはならない、と先代からも厳しく言い含められています」

  • 宮嶋 康彦

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2009年9月11日(金)

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 こんな時代、今だから、カバのように生きたい、と思うのである。

 争わず、謀らず、求めない。不要を見ず、聞かず、語らない。カバはひたすら眠ることを世過ぎとして、体力の消耗を避けて眠りをむさぼる。小食に甘んじて動かず、臆病に徹して自ら攻撃をしかけることがない。カバはきわめて俊敏な動物である。走れば時速50キロを超え、100メートル走なら、ジャマイカのボルトよりも早い。持ち前の能力を秘めて時勢と対峙する。

 鳥取県米子市内で、前回紹介した「どらやき」の取材中、話は餡子からカバへ飛び火した。蕎麦屋で、偶然、出遭った初老の男性から、意外な会社の名前を聞いたことが発端だった。カバのルポは私の専門といってもよく、著作が5冊ある。なぜカバなのか、理由は後に譲るとして、まずは、初老の男性の話から始めよう。

 中央大学経済学部を卒業、1959(昭和34)年「最初に勤めたのがカバヤ食品でした」というのである。カバヤはカバと深いえにしで結ばれていて、取材にも十分な時間をかけた企業だった。この人物は現在のmyAN(まいあん・旧米子製餡)社長、田中剛氏(72歳)である。

 私はこの偶然を非常に驚いて、矢継ぎ早に質問をした。

 「カバヤキャラメル、をご存知ですね、1954(昭和29)年に、生きた2頭のカバ(いずれも生後数カ月の子カバ)をドイツから購入し、メス1頭にカバ子と名付け、水槽を設えたトラックに乗せて、キャラメルの宣伝のために西日本の各地を巡っていたことを記憶していますか?」

 「入社したときには、そのキャンペーンが、ちょうど終わったときでしたね、でも、カバの形をした“カバ車”は1台くらいは、まだありましたよ、それにしてもあなた、こんなところでカバヤキャラメルの話ができるなんて、私のほうこそびっくりですよ」

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 カバヤキャラメルのキャンペーンに供されたカバは、1954(昭和29)年から57(昭和32)年ころまで、米軍払下げのトラックの荷台に乗せられて、山陰から四国、九州を“巡業”した。生後数カ月のカバは、体重50キロ程度だったはずだが、田中社長が入社した1959(昭和34)年には5歳になって、体重も500キロを超えていたはずだ。あまりに大きくなり過ぎて、トラックから降ろされたのだろう。「赤箱」で名を馳せたカバヤキャラメルは影を薄くし、「私は商品開発をまかされまして、ジューCをはじめ、ヒット商品が次々に誕生」するようになっていく。

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 水槽付きのトラックから降ろされたカバは、いったん岡山市内の池田動物園に預託され、それから動物商を仲介し、九州小倉の到津遊園(動物園)へ飼われていく。さらに、石川県金沢市の卯辰山にあった金沢ヘルスセンター(動物園)に買い取られ、そこでオスとの間に6頭の子どもを産んだ。しかし、施設が狭すぎたために、生まれた子カバは1頭も育つことがなかった。

 金沢ヘルスセンター閉園後、「公営の動物園が必要」という県民の声が高まり、石川県立いしかわ動物園が誕生、世情と人間の都合で数奇な運命をたどったカバは、ようやく安住の地を見出すことになる。

 そう、カバヤキャラメル宣伝の一翼を担ったカバは、今も生きて、石川県能美市の県立いしかわ動物園で飼育されている。

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